近江牛に餌を与える鈴木睦雄さん。経営の厳しさは増している(近江八幡市大中町・鈴木牧場)

近江牛に餌を与える鈴木睦雄さん。経営の厳しさは増している(近江八幡市大中町・鈴木牧場)

 日本三大和牛の近江牛を肥育する滋賀県内の農家や卸業者が、新型コロナウイルスの影響を受け、窮地に立たされている。国内外の飲食店が休業し、需要が激減したためだ。枝肉の販売価格が出荷までのコストを大きく下回り、廃業を考える農家も出てきた。国や自治体は補助制度を設けるが、助成の条件は厳しく、農家らは「このままでは近江牛生産の存続は難しい」と危機感を募らせている。

 近江八幡市と東近江市にまたがる大中の湖干拓地は、肉用牛約6千頭が肥育される一大産地。約480頭を飼育する近江八幡市の鈴木牧場では毎月、生後約2年半の5頭前後を出荷する。鈴木睦雄さん(65)は「例年、企業の歓送迎会などで飲食店からの需要が高まる春は、枝肉の価格が上がるが、今年は下がった。赤字が続き、経営が厳しい」と話す。

 JAグリーン近江畜産事業部によると、近江牛1キロ当たりの取引価格は平均2600円前後。近年は外国人観光客が増え、飲食店の繁忙期は3千円を超えることもあった。ウイルス感染が拡大した2月以降、観光客が激減。緊急事態宣言を受け休業する飲食店が増えた4月下旬は、1500円台にまで下がった。4月以降、一月の収入が例年の4割減となり、廃業の危機に直面している農家もあるという。

 国は肉用牛の生産者に対し、経営体質を強化する条件を満たせば1頭につき、2~5万円補助する制度を新設した。しかし、示された5条件は、畜舎環境の整備や、血液や肉質の分析など費用や時間がかかるものばかりだ。

 肥育用の牛を購入して育てる場合、1頭(約500キロ)を出荷するまでのコストは平均約130万円。販売価格が生産費を下回れば、赤字分の一部が補塡(ほてん)される国の制度もあり、県や近江八幡市などが補助の上乗せを決めたが、入金までには1カ月以上かかる。多くの農家からは「支援はありがたいが、明日つぶれるかもしれない。迅速に補助してほしい」という声が聞かれる。

 影響は飲食店や卸業者にも及ぶ。同市の近江牛レストラン「ティファニー」も団体観光客のキャンセルが相次ぎ、売り上げは8割減。料理長の桂田真一さん(50)は「近江牛は特別な時に食べるもの。外出自粛や節約の空気が高まると影響は大きい」と話す。

 近江牛を国内外に卸す同市の「びわこフード」は3月から4月中旬、海外への輸出がぴたりと止まった。国内の飲食店からは、テークアウト用を中心とした発注はあるが、ロースやヘレなどの高級部位が余り、売り上げは3分の1以下に落ちた。びわこフードの専務の佐野智哉さん(34)は「先が見通せない。近江牛を守るため、ネットをもっと活用するなど、新たな売り方を考えないといけない」と模索を続ける。