夫を過労死で亡くした女性。過労死の根絶を願っている(京都市中京区)

夫を過労死で亡くした女性。過労死の根絶を願っている(京都市中京区)

 過労死のない社会はいつになれば実現するのか―。働き過ぎによる死や自殺を防ぐ過労死等防止対策推進法が施行されて、3年が経過した。大手広告会社、電通の新入社員の過労自殺などを受け、京都府や滋賀県でも長時間労働を減らす動きが生まれつつあるが、過労死ゼロには至っていない。遺族らは、社員の犠牲を顧みないブラック企業の根絶を願うとともに、残業の上限を規制する政府の方針に対しても不十分と批判を強めている。

 京都、滋賀の両労働局によると、仕事を主な原因とする脳・心臓疾患の労災補償請求は、2016年度に京都府40件、滋賀県11件に上り、いずれも前年度から増加した。同疾患で死亡し、16年度に労災認定された「過労死」は、京都で2人、滋賀で1人に上った。
京都労働局の吉岡宏修監督課長は、請求が増えた背景について「法施行などの影響で、過重労働が原因の疾患は労災になるという認識が広がった」と解説する。今年11月には月80時間以上の残業など長時間労働の疑いがある約130事業所を指導したといい、「大手企業は法令順守を重くみて、長時間労働を減らすようになったが、中小は人手不足で、まだ続けているところも多い」と指摘する。
 近年は精神障害の労災請求も目立つ。京都、滋賀では、精神障害で自殺し、労災に認定された人もいる。労災関連の訴訟を多く手がける古川拓弁護士(西京区)は「疲れている時にパワハラなどをされ、耐えられなくなる例もある」とし、長時間労働と精神障害の関わりの深さを強調する。
 長時間労働の是正に向けて、労災の相談を受けている京都労災職業病対策連絡会議(中京区)の芝井公事務局長は「労働時間の管理が曖昧なことが最も問題だ」と話す。各企業が従業員の労働時間を適正に把握すべきだと訴える。
 政府は残業の上限規制を導入する方針だが、「最長で月100時間未満」とする計画で、全国過労死を考える家族の会の寺西笑子代表(伏見区)は「週60時間以下を目指す過労死防止法の趣旨に逆行している」と上限設定の見直しを求めている。

貴重な人材 なぜ殺すの 夫亡くした女性 企業・社会に憤り

「子煩悩で、仕事熱心で、まじめな人でした」
 京都府内に住む女性(44)は、やりきれない表情で振り返る。営業職だった夫(当時40歳)は2013年4月、職場で倒れ、そのまま帰らぬ人になった。死因はくも膜下出血だった。
 夫の口癖は「営業マンは忙しいものや」だった。休日でも数時間は仕事に出ていた。倒れる10日ほど前、「今日だけは丸1日休んで」と懇願し、息子3人と滋賀県の温泉で春休みを満喫した。その時も夫は「1日休むと他の日は休めなくなるよ」と話したという。
夫の死亡確認後も現実を受け止められなかった。食事がのどを通らず、体重は1週間で8キロ減った。毎日をぼうぜんと過ごした。
 約1カ月後、知人に紹介された過労死遺族の女性から助言を受け、労災の認定を目指すと決めた。同僚や顧客を訪ねると「彼のためなら」と進んで協力してもらえた。夫が周囲に好かれていたのだと分かった。
 一方で、厳しいノルマを課せられ、達成できなければ上司に叱責(しっせき)されていたことも分かった。夫はよく「会社を辞めたい」と漏らしていた。上司は謝罪したが、女性は「憎しみよりも、なぜ誰かが彼を止められなかったのかという思いの方が強いんです」と、過労死を生み出す企業や社会への憤りを募らせる。
 夫の死は15年に労災と認定された。女性は最近、過労死遺族の会に参加するたび、若い子どもを持つ母親の参加が増えていると感じるという。「なぜ、会社に貢献する人を会社は殺すのか。なぜ貴重な人材を日本社会は切り捨てるのか。もう仕事で死ぬことは絶対に止めないといけない」