<黒人は法から身を守らなければならない>。少し前に読んだ米国のミステリー小説にそんな言葉があった。人種への偏見がはびこる南部のまちで起きた殺人事件の話だ▼捜査に当たる黒人の主人公のおじで、元弁護士の憲法学者がそう言う。法律はわれわれに不利に書かれた決まりごとだと。作品は「現代アメリカの暗部をえぐる」と評されたが、そんな黒人の置かれる厳しい現実がむき出しになった▼中西部ミネアポリスで起きた白人警官による黒人男性暴行死事件である。抗議デモは全米に広がり、キング牧師が暗殺された1968年以来という40都市での外出禁止令が出た▼一部が暴徒となり、放火や略奪に及んでいる。見過ごせないのは高い死亡率や失業といった、コロナ禍で浮き彫りになった差別や格差が背景にあることだ▼香港では中国による「国家安全法」導入に抗議してデモが再燃し、まさに法から身を守る問題となっている。こちらもコロナ対応や経済失速への批判をかわす当局の狙いがあるといわれる▼トランプ大統領は「法と秩序だ!」と強権的なデモ制圧を訴えている。州兵や連邦軍が向ける銃から身を守らねばならない事態となるのか。弱者を思いやらない民主主義は危うい。コロナが暗部をあぶり出すのなら日本も人ごとではない。