容疑者のこれまでの供述

容疑者のこれまでの供述

 未曽有の放火殺人事件はなぜ引き起こされたのか。逮捕の舞台裏に何があったのか。捜査が動き出した京アニ放火殺人事件の背景を探る。

 「京アニに恨みが募っていた。許せなかった」

 5月27日午前、京都府警伏見署の一室。顔や腕にやけどの痕が残る青葉真司容疑者(42)は、逮捕後に移送された同署でストレッチャーに寝かされたまま、淡々とした口ぶりで取り調べに応じた。

 36人もの犠牲者を出した京都アニメーション(京アニ)放火殺人事件は、発生から10カ月余りを経て本格的な捜査が始まった。

 昨年7月18日午前10時半。赤いTシャツにジーンズ姿の男が、京アニ第1スタジオ正面玄関から建物内に入ってきた。「死ね」。バケツ内のガソリンをまき、ライターで着火。爆発音とともに発生した黒煙と高温ガスは数分で3階建ての屋内全体を満たし、多くの命を奪った。

 強い殺意の背景には何があるのか。事件直後に身柄を確保された時や、昨年11月の任意聴取、そして今回の逮捕時で一貫しているのが、「小説を盗まれた」という主張だ。

 捜査関係者によると、逮捕後には複数の京アニ作品を具体的に挙げて「盗用された」と供述したという。京アニは、一般から小説を募集する「京都アニメーション大賞」を主催している。大賞作はアニメ化や小説としての出版が約束されている。これまでの捜査で、青葉容疑者と同姓同名の人物が過去に小説作品を応募していたことが確認されている。

 応募作は長編と短編の少なくとも2点で、京アニに多い「学園もの」のジャンルだった。さいたま市にある青葉容疑者の自宅アパートでは、京都府警の家宅捜索で大量の原稿用紙も見つかっている。

 しかし京アニ側によると、応募作はいずれも形式を満たさず一次審査で落選していた。京アニ側は一貫して「弊社の作品に同一、類似の点はない」と青葉容疑者の主張を否定。逮捕を受けた会見でも「中身を見る手前で除外されていた。(盗作の)余地はなかった」と強調している。

 事件前の2018年9~11月には、ネット掲示板サイトに「京アニに現行(原文ママ)落とされた」「アイデアをパクる貴様らだけは絶対に許さん」「京アニに裏切られた」などと同社を名指しした多数の書き込みがあった。投稿者は不明だが、捜査本部は青葉容疑者との関連を慎重に捜査している。

 ある捜査幹部は「設定やせりふなど、青葉容疑者にしか分からない認識の問題があるのかもしれない」と語り、一方的に被害感情を募らせた可能性を指摘する。

 青葉容疑者の言動からは強固な殺意や計画性が浮かぶ。捜査関係者によると、入院中の任意聴取や逮捕後の取り調べに対し、「多くの人が働く第1スタジオを狙った」「当初は刃物で襲うつもりだったが、ガソリンを使えば多くの人を殺害できると思った」と供述しており、大量殺人を狙ったことがうかがえる。

 京アニ事件の3日前に京都入りした青葉容疑者の足取りを防犯カメラ映像を基にたどると、同スタジオだけでなく、京都府宇治市にある京アニ本社近くでも路上を不自然に往復していた。事件前日にガソリン携行缶を購入しており、4日間にわたって下見や道具の調達といった下準備をしていた可能性がある。

 青葉容疑者は、京都市内ではホテルに泊まったり、電車で移動したりしているが、周囲とのトラブルは確認されていない。ある捜査幹部は「常にイライラして凶暴性を持つ人物かというと、そうではない。何が引き金になったのか、捜査で解明しなければいけない」と言葉に力を込めた。