白人警官の暴行による黒人男性死亡事件に対する抗議活動が、全米に広がっている。一部が暴徒化し、収束の気配は見えない。

 制圧のため軍投入も辞さないトランプ大統領の強硬姿勢が、混乱に拍車をかけている。トランプ氏は人種による米社会の分断をあおるかのような言動を慎み、平和的に事態収拾を呼びかけるべきだ。

 発端となった事件は、米中西部ミネソタ州ミネアポリス近郊で先月25日に起きた。黒人男性が、偽札使用の通報を受けて駆け付けた白人警官に拘束され、死亡。警官に膝で首を地面に押し付けられた男性が「息ができない」と訴える様子を撮影した動画によって、警官の暴行が明らかになった。

 米社会にはびこる人種差別への憤りが瞬く間に全米に波及したと言えよう。

 事件に関与したとして免職となった元警官4人全員が逮捕、訴追された。だが、事件から10日たった4日も首都ワシントンなどで抗議デモが続いている。

 デモ参加者による店舗の略奪や破壊行為が相次いだのは残念と言うほかない。一部で犯罪者集団が扇動しているとされ、デモに乗じた不法行為は決して許されない。

 男性の遺族の「お願いだから平和的にやろう」との訴えもあって、抗議活動はおおむね平和的に行われているという。

 ところが、トランプ氏はデモを「国内テロ行為」と決めつけ、「暴動制圧」を理由にワシントン近郊に陸軍部隊を待機させている。実際に出動させるかどうかは不明だが、米軍内部で自国民に銃口を向ける可能性に戸惑いが広がっているようだ。当然だろう。

 11月の大統領選で再選を目指すトランプ氏は強い指導者像をアピールし、保守層の支持固めを狙っているとみられる。だが「戦時」を演出する強引な政治手法は、社会の分断を加速させるだけだ。

 香港の民主化デモに対する中国当局の対応と同様、力ずくでは、問題は何も解決しない。

 抗議が盛り上がる背景には、人種差別の根深さがある。トランプ氏が白人至上主義を助長し、社会のひずみに正面から向き合ってこなかったことへの不満は強い。

 米国は多人種・多民族・多文化の国家であり、黒人や中南米系の人口が増える一方、白人との収入格差は縮まらない。こうした格差がコロナ禍によって一層浮き彫りになった。トランプ政権は、国民が抱く現状への不平や怒りの声を謙虚に受け止めねばなるまい。