大雨のシーズンが近づいている。近年相次いでいる甚大な水害を防ぐには、取り得る対策を総動員する必要があろう。

 全国各地で急がれているのが、大雨が降る前にダムを放流し、ためられる水量を増やして洪水への対処能力を高める取り組みだ。

 政府は治水強化策として進めている。ダムの事前放流を行う手続きについて、全国109の1級河川水系のうちダムのある全99水系で地元自治体や利水団体と合意し、今月初めまでに協定を結んだという。

 ダムの役割には、雨をためて洪水を防ぐ治水と、農工業や発電、水道用の利水がある。これまで利水用のダムはほとんど治水目的の放流を想定していなかった。

 今回の協定により、利水ダム620カ所と治水・利水両用の多目的ダム335カ所で事前放流できるようになる。

 新たに水害対策に充てられる貯水容量は45億立方メートル分の確保が見込まれる。現状から全体で倍増するというから大きな前進といっていいだろう。京滋を流れる淀川水系でも貯水容量が最大78%増、由良川水系は28%増になるという。

 事前放流を拡大するのは、頻発化する大規模水害への対処が「待ったなし」だからだ。

 2018年7月の西日本豪雨では、愛媛県のダムで緊急放流後に下流が氾濫し、犠牲者が出た。再発防止に向けた国土交通省の有識者検討会が提言したのが、事前の水位調整である。

 事前放流は、下流域の浸水リスク軽減に加え、満杯による「緊急放流」を避けて住民の避難時間を確保する効果もある。

 昨年10月の台風19号では各地で河川氾濫が相次いだ。茨城県など4県と国は、治水機能を持つダム6カ所で満杯近くになった水を緊急放流した。いずれも事前放流していなかった。

 直前の昨年8月末時点で事前放流実施の要領を作成していた利水、多目的ダムは全国でわずか58カ所。管理者が水位が回復せずに農業用水などが不足するのを心配し、ためらった例が多かったようだ。

 このため政府は、省庁横断の検討会議を設置し、既存ダム活用を拡大する方針を確認。今回、各ダムで利水団体などと結んだ協定では、事前放流で用水が不足した場合、別の河川から融通するとし、金銭面でも補償もするとしたのが地元協力につながったといえよう。

 新たなダム建設や堤防強化などは膨大な費用と時間を要する。従来の縦割り行政を見直し、今回のように国交省以外が所管する利水ダム活用を広げることは、現実的かつ即効性が期待できる新たな治水対策として有意義だろう。

 ただ、施設改修しなければ事前放流できないダムも少なくない。国は今月中に放流設備の改良など対策の工程表を水系ごとにまとめるという。災害は待ってくれない。一日も早く機能するよう整備してほしい。

 貯水状況や放流の情報発信とともに、住民避難の方法も再確認しておきたい。