吉田茂元首相は1300通以上の手紙を残しているが、長い文章や克明な記録を書くのは好まなかったという。膨大な日記を残した元首相の芦田均がこまめにメモをとる姿を軽蔑していたとも伝わる▼日記や記録と違い、手紙は具体的な相手と一対一の関係をつくる。吉田は不特定多数に訴えるより、狙いを定めた人に語りかけるのを得意としていた(渡邉昭夫「戦後日本の宰相たち」)▼その吉田を祖父に持つためなのか、麻生太郎財務相の発言は公の場であっても身内の仲間と一対一でしゃべるような不用意さがある。コロナ禍で日本の死者数が欧米より少ないことについて「民度が違う」と国会で述べた▼「子どもを産まなかった方が問題だ」「(セクハラ加害者の)人権はなしってわけですか」-など過去の発言と同じく、今回も人を見下すような物言いである。言われる側の痛みは感じていまい▼麻生氏と同じ発想をする人々には受けても、不特定多数の国民に理解を得られるとは思えない。気心の知れた「お友達内閣」に安住し、仲間内と世間の区別が付かなくなっているのか▼吉田は演説が苦手だったというが、その分、手紙で特定の相手と向き合ったようにみえる。人前で話すのに特定の相手しか見えていない麻生氏はよくよく考えてみるべきだ。