その若者は入学試験の会場に5分遅刻した。当時、街中で見かける時計は手動のぜんまい式で、少しずつ違う時間を指していたからだった。それを根拠に「間に合った」と強弁したが、受験は認められなかった▼後に乾電池の発明で名をなす屋井先蔵(1863~1927年)の逸話である。屋井は苦い経験から、正確な時計を広めようと電気時計を開発する。さらにその動力源として乾電池を生み出した▼きょうは、天智天皇の水時計の故事にちなむ「時の記念日」。制定からちょうど100年となる。「時間をきちんと守り、欧米並みに生活の改善・合理化を図る」ことが、記念日のもともとの狙いだった▼かつての日本人は今ほど時間に厳格ではなかったようだ。わずか1世紀ですっかり変わったのは、正確な時計の普及とも無縁ではないだろう。遅刻の功名かもしれない▼シチズン時計の調査によると、日本のビジネスパーソンの98%以上が「日本人は時間に正確」と回答した。仕事、プライベートともに「5分前までに到着する」が8割以上を占めている▼コロナ禍で商談などのオンライン化が進んでいる。移動せずに済んでもリモート会議に遅刻しない保障はない。言い訳も難しそうだが、そこから100年後を変える何かが生まれる可能性だってある。