いがの中にある実がこんなにおいしいと発見したのは誰だったのだろう。味を想像しながら、こぼれ落ちた栗の実を拾っていると心が躍る▼砂糖のような甘味がなかった頃、栗や柿の甘さは今と比べようがないほどに貴重だった。さらに古代、稲作が始まるまで、栗や木の実は縄文人の主食だった▼約1万年前の栗の皮が出土したのは琵琶湖南端近くの水中遺跡「粟津湖底遺跡」の貝塚だ。水中のため保存状態が良く、その後の分析調査で縄文人は摂取カロリーの5割以上を木の実に頼っていたとわかった▼この時季、栗に心ひかれるのは遠い記憶からなのだろうか。栗と砂糖が主原料の菓子・栗きんとんで有名な岐阜県中津川市を訪れた。12月ごろまで、市内の各和菓子店がこぞって販売し、全国から「栗好き」が集まってくる▼同市観光協会によると、市内の店舗は30軒以上。観光客は、地図を手に店を巡って栗きんとんを食べ比べる。駅前のにぎわい特産館では、1箱で7店、2箱で14店の味を楽しめる「詰め合わせ」を販売し、3カ月余りで1万箱を売り上げる▼各店の創業期はバラバラだが、「元祖」や「本家」争いはなく、味を競い合って共存しているという。素朴な味をかみしめていると、連綿と秋の恵みを尊んできた先人の暮らしを身近に感じる。