「年寄り半日仕事」。そんな養生訓のような言葉を86歳の冒険家、三浦雄一郎さんは大事にしているそうだ。年をとったら半日だけ働くという考え方だ▼思いついたのは80歳でエベレストに登る前のこと。高齢に加え、3年半前に大腿(だいたい)骨を折るなどの大けがをし、出発2カ月前に心臓手術も受けていた。周囲は当然、強く反対したが、休息しながら半日だけ動く方法を考え、登頂に成功する。世界最高齢登頂記録の更新だった▼できない理由より、どうしたらできるかを考える。そんな方法で数々の困難を乗り越えてきた。だが今回の南米大陸最高峰アコンカグアへの挑戦は、アタック途中で中止の決断をした▼持病のある心臓などに懸念が生じ、同行の医師らから「泣いて説得された」という。医師は過去のエベレスト登頂時にも同行し、体調をよく知る人だ。三浦さんは1時間悩んで下山を受け入れた▼山頂を目前にして引き返すのは勇気がいることだ。だが挫折や失敗には目標達成のためのヒントが必ずあり、「次へのステップになる」と自著に書く。「生きてさえいれば、またチャレンジできる」とも▼状況に応じて引き返すことの大切さは、登山に限らず、多くのことに通じよう。三浦さんの久しぶりの挫折がどんな形に昇華されていくか楽しみである。