石炭火力発電所の新設が計画されている神鋼神戸発電所(神戸市)

石炭火力発電所の新設が計画されている神鋼神戸発電所(神戸市)

 行政や企業の活動が暮らしや生業(なりわい)に悪影響を与えるかもしれない。そんなとき、訴訟を起こすのは市民・住民の権利だ-。この考えに異論を唱える人は、いないと思う。

 一方で、とりわけ行政訴訟では原告に裁判を起こす適格性があるかが論点になる。

 日本は特にハードルが高いとされる。乱訴防止や法体系維持に必要な議論だろう。でも、こだわりすぎれば、目の前の重要な問題を司法が黙認することになりかねない。

 神奈川県横須賀市や神戸市などで計画されている石炭火力発電所の新設・操業を巡る裁判を取材して、強く感じることだ。

 いずれも原告は地元住民で、被告は国や設置企業。NPOの気候ネットワーク(京都市)などが支援している。

 二酸化炭素(CO2)や窒素酸化物などを大量に排出する石炭火力で温暖化や大気汚染が進み、自然災害や健康被害を受ける可能性が高まる-。原告はこう主張する。

 横須賀石炭火力訴訟の原告団には漁師やダイバーもいる。「海水温上昇で藻が生えない『磯焼け』がすでに起きている。温暖化の原因は放置できない」と訴える。

 一方、国は「原告には訴訟利益がない」と主張。原告側は石炭火力で受ける具体的な権利侵害も証拠として示す必要に迫られている。

 建設予定地には以前、石油火力があった。事業者(東京電力と中部電力の関係会社による合弁)は石炭火力の新設を「発電施設の更新」として、簡略化した環境影響評価(アセスメント)の結果を国に提出。国もこれを認めてしまった。

 環境省のルールでは、施設の更新で排出が減る場合は簡略アセスの対象になる。だが実際には石油火力は長く閉鎖されていて更新とは言い難い。石炭火力に最新装置を使うとしても、同じ量を燃やせば石油より石炭のCO2排出は多くなる。

 実は火力発電には設置許可や認可の手続きがない。行政がチェックできるとすれば、環境アセスだけだ。石炭火力を推進したい事業者と国がアセス制度の隙間利用で結託したとしか思えない。

 裁判所は入り口論にこだわらず、手続きの可否も審理すべきだ。そうでなければ行政の追認機関になってしまう。

 国や企業に温暖化対策の実施を求める訴訟は世界的に増えている。オランダ最高裁は昨年末、市民団体と市民約860人が国に対し温暖化対策の強化を求めた裁判で原告の訴えを認めた。

 気候ネット理事長の浅岡美恵弁護士は「気候政策は行政に裁量権がある、という従来の国の主張を退けた画期的な判決。世界に影響を与えるのではないか」と見る。

 石炭火力の影響は広く及ぶ。立地からは遠いが京滋も無縁ではない。今後も裁判の行方を注目していきたい。