FM京都のレギュラー番組「ムーンライズ・キングダム」の最終回のために京都に帰っていた何日かの間に、東京ではコロナウイルスにまつわる状況が一気に変化していて、近いうちに緊急事態宣言が出て街がシャットダウンされる、という噂(うわさ)が囁(ささや)かれだしていた。東京に戻ると、スーパーの棚は見事に空っぽになっていて、ぴたっと街から人影がなくなっていた。

 そんなある日、春の匂いがうっすらとしてきた街に季節外れの雪が降った。屋根も道路も一面真っ白で誰もいなくなってしまったように思えた。僕は久しぶりの暖房をつけて、冬が舞台の大好きな短編小説を読み返した。スチュアート・ダイベック『シカゴ育ち』とエリザベス・ストラウト『オリーヴ・キタリッジの生活』はどちらも雪がうっすらと降り積もる寂しい町を思い出させる短編集だ。

 特にダイベックの『フェアウェル』と『冬のショパン』の2編は静かな街に雪の降るしんしんという音だけが聞こえる、という風景のなか、遠い記憶を思い出すような語り口で紡がれる物語がとても美しくて、とても大好きな短編だ。

 これからやってくる混乱の前に、世界がひときれの眠りについたようなあの日は本当に綺麗(きれい)だった。