かるたなどのイベントが行われる企画展示室。畳に座って低い位置で日本画を鑑賞できる

<ミュージアムのちから コロナ禍に考える>

 「和歌はどこかに行かなくても誰かに会わなくてもつくれる。こんな時こそ楽しんでみては」。嵯峨嵐山文華館(京都市右京区)の広報担当中島真帆さんは提案する。つくるのが難しければ味わうだけでも、と。

 同館は藤原定家ゆかりの地で百人一首の歴史を伝える。「百人一首というコンテンツには力がある」と中島さんはいう。古くは万葉の歌から選ばれ、1300年以上も伝えられてきた。言葉の魔力、現代に通じる普遍性があるからだと分析する。

 中島さんが薦めるのが、常設展示している和歌の英訳だ。日本文学研究者のピーター・マクミラン氏が手がけた。現代人にはむしろ現代語訳よりも英訳のほうが、歌の世界に入りやすい場合があるという。

 

 例えば大中臣能宣(おおなかとみのよしのぶ)の「みかきもり」の歌。一人で好きな人を思って眠れない夜の歌とも解釈できるが、英訳では、恋の炎が「blazes up again each night(夜ごと燃えさかる)」。昼は「fades to embers(燃えさしとなる)」。つまり、二人で情熱的な時間を過ごして燃え尽きるという、色っぽい解釈も成り立つ。

 「おほけなく」の歌では前大僧正慈円がつらい世に生きる人々を「embrace them in my black robes(私の袖で抱き締めたい)」と詠(うた)う。慈円の生きた平安末期は戦乱や天変地異が相次いだ。民衆のために比叡の頂で祈る慈円の姿は感動的だ。英訳なら、そのまま現代の歌に使えそうな詞だとも思える。

 末次由紀さんの漫画「ちはやふる」の人気もあり、若い世代の来館は増えた。120畳の空間で行うかるたイベントでは、百人一首を知らなかった小学生も帰る頃には覚えていた。

 和歌ではないが、昨年の企画展で俳人の夏井いつきさんを招き、会場の作品をテーマに参加者約100人が俳句をひねった。感じたものを言葉にしようとする楽しそうな表情に中島さんは目を奪われた。「歌がコミュニケーションツールとして優れていることを実感した」

 1300年前の歌でも詠まれた感情は生きていて、現代人の心に届く。それが芸術の力だと中島さんは感じている。

 

 嵯峨嵐山文華館 「小倉百人一首殿堂 時雨殿」を改装して名称変更し、2018年に開館。修学旅行生の来館も多い。百人一首の関連資料を常設展示するほか、江戸から近代にかけての日本画を企画展示する。作品が低い位置に展示されるため、畳に座って鑑賞できる。2階からの大堰川の眺めも見どころ。京都市右京区嵯峨天龍寺芒ノ馬場町。075(882)1111。