3人が死亡した施福寺集落の土砂崩れ現場(2018年7月7日午後1時15分ごろ、綾部市上杉町)=小型無人機ドローンから

3人が死亡した施福寺集落の土砂崩れ現場(2018年7月7日午後1時15分ごろ、綾部市上杉町)=小型無人機ドローンから

 275人の命を奪った西日本豪雨から1年2カ月が過ぎた。京都府内では綾部市上杉町・施福寺集落で3人が土砂崩れの犠牲になった。現場で痛感したのは豪雨が降り始めてからの避難の難しさだ。山沿いに住む人は「自分で考える避難」を実践してほしい。

 昨年7月7日午前0時過ぎの施福寺集落。小雨は1時間50ミリ超の豪雨に一変した。市が避難指示を出した2時間半後の同4時20分過ぎ、裏山が高さ25メートル、幅25メートルにわたって崩壊。土砂が民家2軒を直撃し、木造平家に住む稲葉利夫さん=当時(80)=と妻英子さん=同(76)、笹井定昭さん(70)方の離れ1階にいた三男孝信さん=当時(36)=が死亡した。現場で私は家族と34時間救出を待ったが、祈りは届かなかった。

 稲葉さん夫妻は土砂崩れに遭う瞬間まで、近所の塩尻佳代さん(56)と電話で話していた。自宅そばが濁流で削られるのを見た塩尻さんが「うちは避難します。避難しませんか」と英子さんに提案すると、「よっしゃ、わしらも行こう」と利夫さんが応じ、英子さんが「行くわ」と答えた直後、土砂に襲われた。

 集落の80代女性は、排水溝が激流となって道をふさぎ、逃げられなかった。「あんな雨は経験したことがない。岩が転がる音が聞こえ、震えた」と振り返った。未曾有の豪雨の中、濁流が吹き出す真っ暗な集落内を避難する決断は容易ではない。私には「無理」と感じた。土砂災害には沢水が濁るなどの前兆があるが、多くは直前で、施福寺集落で避難できたのは塩尻さんらごく少数だった。

 綾部市旭町で一つの答えに出会った。旭町では市内最大規模の土砂崩れで民家1軒が全壊したが、住民の女性=当時(91)=は2日前に街中に避難し無事だった。5年前から台風や大雨のたびに20回以上、被害なしの「空振り」にもめげずに家族が避難させ、命を救った。早めの繰り返し避難の有効性を立証していた。

 京都大防災研究所の牧紀男教授は「自宅が土砂災害特別警戒区域の場合は特に、空振りが続いても『訓練』と考え、区域外に毎回避難する習慣が命を守る上で不可欠」とする。できない場合でも(1)インターネットの「土砂災害警戒判定メッシュ情報」や「近くの小川が濁り始めた」といった兆候など自分が避難する判断の目安を平時に決めておく(2)大雨警報が出た段階で注意し、目安に達したら避難する(3)逃げ遅れた場合は近所の丈夫な建物や自宅2階に移動する-と対処法を挙げる。

 京都府は自治会単位で避難の目安を決めるワークショップを各地で始めた。ホームページに「水害等避難行動タイムライン」の欄を設け、普及に励むが、個人向けのツールも充実してほしい。

 豪雨から1年後、7月7日の追悼式。孝信さんを失った定昭さんは「避難しておけば」「2階で寝るように言ってやれば」と悔やんだ。遺族の無念を見てきた記者として、命を守る避難を呼び掛けてゆきたい。