「琵琶湖周航の歌」に関する資料が展示されている琵琶湖周航の歌資料館(高島市今津町中沼1丁目)

「琵琶湖周航の歌」に関する資料が展示されている琵琶湖周航の歌資料館(高島市今津町中沼1丁目)

 「われは湖(うみ)の子」で始まる「琵琶湖周航の歌」の発祥の地・高島市で、いったん市議会で決まった琵琶湖周航の歌資料館(同市今津町中沼1丁目)の移転計画をめぐり、市民から、反対の声や説明不足を指摘する声が上がっている。6月下旬には、説明会開催を市に求めた地元住民らの請願書が市議会で採択される異例の事態となった。市は8月3日に住民に計画を説明する。市民の不信感が解消されるのかどうか、注目したい。

 周航の歌は1917年に誕生した。旧制三高(現京都大)ボート部が今津に寄港した際、部員の小口太郎の詞を、当時の流行歌「ひつじぐさ」(吉田千秋作曲)に乗せて歌ったのが始まりとされる。98年に開館した資料館は、周航の歌に関する資料を展示する。年間約1万7千人が訪れる市内有数の観光スポットで、地元住民らが周辺で花や周航の歌ゆかりのヒツジグサを栽培するなど、交流の場としても親しまれている。

 市は、71年建築の同館が老朽化しているとして、展示物を約150メートル北の今津東コミュニティセンターに移転させる計画で、本年度予算に同センター改修費約2億5400万円を計上した。現在の建物は閉鎖し、来年4月に同センターで再オープンを目指す。

 市議会が3月定例会で関連予算案を賛成多数で可決し、移転は事実上、決定した。市によると、2018年7~11月に観光協会や地元自治会役員へ、説明した際も「異論はなかった」という。

 だが、取材では「話し合う場がなかった」という声を何度も聞いた。住民らは今年3月に「琵琶湖周航の歌資料館を守る会」を結成。移転によって周辺のにぎわいが失われるとして、市議会へ説明会開催を求める請願書を、市へはJR近江今津駅と今津港を結ぶ道沿いの現在地に残すよう求める約2千人分の署名を提出した。

 請願書は9対8の1票差で採択された。議員にも、計画の進め方に対する不満があったことを物語る。住民らは、常駐職員の有無や観光客を移転先にどう誘導するのかなど、今後の運営について疑問を投げかけるが、今のところ市から説明はない。

 福井正明市長は「議会の議決を得ており、市民説明会は必要ない」との見解を示してきた。背景に、厳しい財政事情から約300の公共施設を今後30年間で半減させる再編計画がある。資料館移転もその一環で「一つの案件ごとに市民説明会を開く余裕はない」という本音が透けて見える。

 「議決された案件への反対は現実的ではない」と指摘する住民もいる中で、約2千人分の署名が集まったのは「観光施設としての資料館が、ただの収蔵庫になってしまうのでは」との不安が払拭(ふっしょく)されていないからだ。市は市民への説明責任をどう考えるのか。移転問題は試金石となる。