食通で知られた北大路魯山人は、特にアユにはうるさかった。15~18センチの若魚を塩焼きにし、「火傷(やけど)するような熱い奴(やつ)を、ガブッとやるのが香ばしくて最上」とする。最も美味なはらわたを残すのは「言語道断」とも▼産地では地元の京都府産を愛し、東京まで生きたまま汽車で運ばせたこともある。6月に入り、京都や滋賀の川では次々とアユ釣りが解禁を迎えている。魯山人が存命なら、この時季は心を躍らせていることだろう▼アユは秋にふ化して海に下り、翌春に川へ上ってくる。川石に付く藻類を食べて20センチ以上に育ち、秋に一生を終えることから「年魚」ともいう▼清流の女王とも呼ばれて繊細なイメージがあるが、実はかなりたくましい魚である。水質汚染で姿を消した関東の多摩川では、水環境の改善で数百万匹が上がってくるようになった▼考古学者の故森浩一さんは、この生命力に注目した。縄文土器にはアユのような魚の骨で文様を描いたものがあるという。毎年川に現れる魚に古代人は神秘的な力を感じていたのではないかと推理する▼近年、鴨川でも堰(せき)の撤去や市民団体が設置する魚道のおかげで、天然魚が京都市の中心部まで上るようになった。橋を渡る際は川をのぞいてみてほしい。きらめく銀鱗(ぎんりん)に、命の輝きが感じられるはずだ。