昔からおでんというものに憧れが強かった。ドラマや映画で出てくる屋台や居酒屋での美味(おい)しそうな湯気。その香りはまるで画面から飛び出て、こちら側にゆたゆたと歩いてきそうなほどだった。

 いつか僕もアツカンなんてものをちびっとずつ飲みながら(小さい頃、その仕草(しぐさ)に憧れてペットボトルの蓋(ふた)でサイダーを飲み、口を切ったことだってあるぐらいだ)、古ぼけたカウンターでおでんを食べるのが夢だった。早くそんな大人になりたいなと思っていた。

 なんとなく思い描いていた京都という町のイメージに反して、屋台もおでん屋さんも見当たらなかった。高そうな料亭のようなところはあるけれど、僕が求めているのは庶民的なお店で食べるおでんなのだ。

 四条大宮から下がったところにあるすず菜というお店はついに見つけた理想のお店だ。小さな店内にはテーブルが三つほどとカウンター。目の前で器に移されるおでんの具がどれも本当に美しくて、特に卵に至っては宝石のようだ。どうやら僕にはアツカンというものは合っていないようだったけど、あの頃の夢が叶(かな)ったような気がしてとても嬉(うれ)しくなってしまう。