香港に、中国政府が治安維持を任務とする出先機関を設けることになりそうだ。

 香港政府に対する市民らの抗議活動を、中国政府が直接、取り締まることができるようになる。

 1984年の中国と旧宗主国英国の共同宣言や、90年に制定された香港基本法(憲法に相当)で認められた香港の「高度な自治」や、これを含む「一国二制度」は、形骸化するのではないか。

 出先機関は、「国家安全維持公署」といい、治安対策の指導や国家の安全に危害を加える犯罪の法的処理に関与する。

 すでに中国が香港への導入を決めている国家安全法制の関連法案に、公署の設置が明記されていることが先日、国営通信によって伝えられた。

 デモなどの抗議活動が収まらない香港の治安維持に、香港政府を通さず、直接当たっていくとの姿勢を示したといえる。

 国家安全法制の関連法案は、国家の分裂につながる活動や内政干渉の禁止を内容とする。

 当局の判断した「特定の状況」においては、中央の国家機関が香港で権力を行使する。香港に「国家安全維持委員会」を新設し、顧問は中央から派遣する。

 関連法は、香港の他の法律より優先される。施行されれば、中国政府の治安機関が香港で容疑者を摘発し、中国本土に送って裁判にかけることもできそうだ。

 これでは、高度な自治の根幹である「司法の独立」がないがしろにされ、香港政府の存在意義は失われるだろう。「一国二制度」が形骸化してしまえば、香港がアジアの金融センターの地位から転落するのも避けられまい。

 公署設置を含む国家安全法制の導入は、香港の市民にとって、受け入れがたいものだ。

 だが、中国の習近平指導部は、香港の抗議デモの背後に「外国勢力」がいると主張し、断固として進める構えだ。9月の香港立法会(議会)の選挙で、民主派の躍進を抑え込む思惑もありそうだ。

 先週、米国や日本など先進7カ国(G7)の外相は、安全法制導入に「重大な懸念」を表明、再考を強く求めた。

 民主主義や法の支配、人権尊重などを基本的な価値とする立場からは、当然の意思表示だ。

 さまざまな分野で自国の統治モデルの優越性を唱え、勢力拡大を図る中国の姿勢は看過できない。G7にとどまらず、国際社会全体から懸念の声を上げるべきだ。