新型コロナウイルスの感染者と濃厚接触した可能性がある場合、スマートフォンに通知が届くアプリの運用を政府が始めた。

 国内の移動自粛要請を全面解除し、経済活動の正常化を進める上で、ITを使った有力な感染防止策として前面に打ち出している。

 安倍晋三首相は、個人情報保護に配慮した仕組みを強調して「安心して活用して」と呼び掛ける。効果を上げるには国民の6割超の利用が必要との研究もあるが、当初3日間のダウンロード数は270万件とやや鈍い出足のようだ。

 アプリで得る情報の範囲や活用法を限定する中で「利用者任せ」が目立ち、検査や受診につなげる効果を疑問視する声がある。

 アプリを使うことが、個人や社会の安全・安心にどう結びつくかを明確にしていく必要があろう。

 アプリ導入で狙うのはクラスター(感染者集団)対策の強化だ。

 利用者同士が1メートル以内に15分以上居合わせると、無線通信機能で互いの端末に記録される。感染判明者がアプリに登録すれば、2週間以内の接触者に通知が届く。

 これまで保健所が感染者に行動歴を聞き取り、濃厚接触者を探し出す膨大な作業で感染封じを図ってきた。アプリは曖昧な行動経路や、電車内など面識のない間柄での感染可能性を接触者が把握できるメリットは確かにある。

 問題は、感染防止に役立てられるのかどうかだ。

 接触が通知された人は、アプリを通じ、発症が疑われる場合は「帰国者・接触者外来等」への受診を案内される。だが、身内を含め症状がないと「14日間は体調変化に気を付けて」と表示され、受診や検査の対象外となるのは理解できない。

 客観的状況から感染の可能性を割り出せるのに、当事者を突き放すようなものだ。保健所の負担が重いクラスター追跡業務の軽減にもつながらない。

 接触者側も感染しているのか、仕事を休んで自宅待機すべきか-など戸惑いや不安を抱える。公的窓口に相談、検査を申し出るよう丁寧に促し、確実に受診できる態勢を整えるのが政府の責務だ。

 アプリは、利用者名や位置情報を収集しないプライバシー重視で普及を狙ったが、効果が見えにくいのでは使う魅力は乏しい。

 国民が不安を抱く個人情報保護と感染者への支援強化を前提としつつ、どうIT情報を活用すれば感染を防ぐ実効性が高まるかの見直しを重ねるべきではないか。