今春の「都をどり」に向けて行われた写真撮影。新型コロナの感染拡大を受けて公演は中止された(2月25日、京都市東山区・祇園甲部歌舞練場)

今春の「都をどり」に向けて行われた写真撮影。新型コロナの感染拡大を受けて公演は中止された(2月25日、京都市東山区・祇園甲部歌舞練場)

 新型コロナウイルスの影響を受け、京都の五花街で開かれる舞踊公演が、春、秋ともすべて中止されることになった。物心共に大きな喪失感に包まれた花街を取材し、芸事を核に形成されたコミュニティーであることを改めて実感させられた。

 舞踊公演は、時流を取り込んだ題材の新作や芸舞妓が勢ぞろいする総踊りなど、ショーアップされた華やかな舞台が繰り広げられる春の公演と、伎芸上達の成果の発表会としての性格が強い、秋の公演に分かれる。

 春は上七軒「北野をどり」に始まり、宮川町「京おどり」、祇園甲部「都をどり」、先斗町「鴨川をどり」と、各花街の公演が2カ月にわたって続く。秋開催の祇園東「祇園をどり」とともに、普段はお座敷以外では見られない芸舞妓の華やかな芸に広く親しめる場として人気が高い。

 今年も各花街とも“五輪イヤー”にちなんだ演目を用意し、2月以降、衣装合わせを行うなど、例年通り準備を進めていた。ところが新型コロナ感染拡大の局面に入り、先行きが不透明になると「観客に安心して見てもらえない」と、苦渋の決断をせざるを得なかった。先斗町では関係者を集めた異例の説明会も行われた。マスク姿で中止の説明を聞く芸舞妓が「心にぽっかり穴が開いたみたい」「いっぱいお稽古してきたのに」と、嘆く声が忘れられない。

 舞踊公演は収益事業として、芸舞妓育成や歌舞練場の維持管理を支える上で大きな意味を持つ。最大の規模を誇る「都をどり」は1カ月の公演期間に、毎年約10万人が来場する一大イベント。祇園甲部は歌舞練場を耐震改修する大規模な工事を控えるだけに、中止の影響を心配する声も聞こえた。

 芸舞妓にとっては芸の上にとどまらず、職業人としての成長を促す場でもある。花街文化に詳しい京都女子大の西尾久美子教授(経営組織論)は「舞妓たちは公演前後の目の回るような忙しさの中で、自身の立場や役割について考え、どれだけの人に支えられているかを知り、なるべき将来像を思い描く」と指摘。今年はそんな生きた教育の場が失われたことになる。

 それでも五花街はコロナ後のあるべき姿を見据える。一時、営業自粛していたお茶屋の再開に際し、共同で策定した接客指針では、感染防止のため、「お座敷遊び」などを避けるよう呼び掛ける一方、あるべき「おもてなし」の定義を「歓談」と「芸事の披露」と位置付けた。苦境の中でも花街が遊興の場にとどまらない、文化の発信地であることを示したようで、心強く感じた。

 6月以降、休止されていた芸事の稽古も徐々に再開されているという。まだまだ先は見通せないが、来春こそは、これまで以上に華やかに繰り広げられる舞台を見てみたい。