戦後日本の安全保障政策の基軸としてきた専守防衛からの逸脱であり、危ぶまざるを得ない。

 政府は、ミサイルが発射される前に相手国の基地を攻撃する「敵基地攻撃能力」の保有を含む抑止力の議論を始める。地上配備型迎撃システム「イージス・アショア」配備計画の停止を踏まえ、24日にも国家安全保障会議(NSC)で長期指針となる「国家安全保障戦略」の初改定に着手する意向だ。

 安倍晋三首相は先週、地上イージスに代わるミサイル防衛に言及し、「抑止力の在り方について、新しい議論をしたい」と表明。自民党内に敵基地攻撃能力を求める声があることに触れ、「われわれも受け止めていかなければならない」と語った。報復能力で攻撃を思いとどまらせる敵基地攻撃を含めた対応を示唆した。

 背景には、周辺国のミサイル技術への懸念がある。北朝鮮はレーダー探知が難しい新型ミサイルを開発、中国も日本を射程に収める高性能ミサイルを配備する。迎撃ミサイルでは、こうした技術向上に対応できないとみられる。

 敵基地攻撃能力に関し、政府は「他に手段がなければ法理的には自衛の範囲で、憲法上許される」との解釈を踏襲しつつ、専守防衛の観点から保有しない方針を堅持してきた。日米安保体制でも、憲法上の制約から日本は防衛の「盾」に徹し、米国が攻撃の「矛」となる役割分担があるからだ。

 脅威に備え、新たなミサイル防衛の検討は必要だろう。だが、どんな兵器を持つかは他国へのメッセージになる。敵基地攻撃の議論は周辺国を刺激し、軍拡競争に火をつけかねない。たとえ防衛目的であっても攻撃すれば、全面戦争に進む危険もはらむ。それは「平和国家」として許されるのか。

 安倍政権は、憲法解釈を変更して集団的自衛権行使を可能とする安保関連法により防衛政策を転換させた。既に敵基地攻撃能力の保有につながる長距離巡航ミサイル導入や、護衛艦「いずも」の事実上の空母化も打ち出している。

 中国や北朝鮮の脅威を理由に、なし崩し的に防衛装備増強を図る姿勢が見え隠れする。地上イージス計画断念を逆手に取り、進めにくい議論を加速させようとする思惑も透ける。野党にとどまらず、連立与党である公明党にも反対論が根強いのは当然といえよう。

 日本の安全には、どんな備えが必要なのか、国際平和にいかに貢献すべきか、原点に立ち返った防衛論議が欠かせない。