「映画を作ったことで、もう一段階、味のある音楽も作れるのではないかと思う」と語るANARCHY

「映画を作ったことで、もう一段階、味のある音楽も作れるのではないかと思う」と語るANARCHY

 京都の向島団地(伏見区)で育ち、国内屈指の人気ラッパーとなった38歳のANARCHY(アナーキー)。音楽活動とともに夢だった映画を初監督した。貧困など、逆境をばねにした実体験も半ば重ね合わせた音楽青春映画「WALKING MAN(ウォーキング・マン)」。「言いたくても言えない人の気持ちを代弁するのがラッパー。まず一歩、踏み出す勇気を映画に詰め込んだ」と語る。主演は「ちはやふる」の野村周平(25)。11日から全国公開されている。
 向島団地の公園が、ラッパーを志す原点だった。中学生の頃、先輩にもらったテープでラップ音楽に初めて触れ、すり切れるほど聞いた。「団地の仲間と公園で輪になって一人一人、ラップをしていくんです。言いたいことを何を言ってもいい。中学生だから『なめんな、なめんな』って言ってたんじゃないですかね」
 父子家庭で育ち、裕福ではなかった。それでも「向島団地が僕を育ててくれた」と感謝する。「薄い壁、隣の声が聞こえてくるような団地は、ある意味、みんな家族。温かいものがあった」。荒れた時期もあったが、仲間から「お前のラップ、やばい」「ラップで飯食えるぞ」と励まされ、京都を拠点に、クラブの舞台に立つようになった。
 「ラッパーは代弁者。怒り、喜び、悲しみ…人の気持ちをちゃんと訴え、心に届くラッパーでいたいとずっと思っている」。東京に拠点を変えても、今年3月発売の曲「Where We From」のMVを向島団地で撮るなど、地元愛は強い。
 「自分は言いたいことがいえるけど、そうじゃない人のために映画を作りたい」と考えた。自らがファンだった漫画家の高橋ツトム(54)や知人の蜷川実花監督(46)らに相談し、企画を煮詰めた。
 主人公アトム(野村)は、父が亡くなり、母も入院中という貧困のどん底。人前で話すのも苦手で友人もいなかったが、ラップ音楽に出合って夢を抱く…。「コンプレックスやマイナスを、プラスに変えられるのが、音楽とか夢」という信念を物語に込めた。
 撮影は川崎市を中心に進めたが、自らの青春時代も交錯する内容にした。初の映画の現場で戸惑いもあったが、「やってみろよと言ってくれ、支えてくれる人がいた。若者が夢へ歩む原動力となる一本になれば」。主題歌も歌っている。
 石橋蓮司(78)、星田英利(48)らが脇を固める。京都ではT・ジョイ京都で公開。=敬称略