3月から続く自粛期間の息抜きにピアノを弾きはじめた。2年前、『Whale Living』というアルバムの制作期間に買ったキーボードが僕の家にある。京都にいたときに住んでいた7畳ほどのワンルームには置いておけなくて、機材倉庫にずっと眠っていたものを引っ越した部屋でいつでも弾ける状態にしておいたのだった。

 今住んでいる部屋は郊外の駅から20分ぐらい歩く立地ということもあって1人で住むにはもったいないぐらいの広さがある。1部屋を寝室兼作業部屋にしていて、キーボードもその部屋にある。いつか弾けるようになりたいと思ったまま鍵盤の上には埃(ほこり)がうっすら積もっていた。それは英会話やペン習字、友達といつか行こうと話す海外旅行のようなものだった。

 かんたんな教則本を読みながらコードをひとつずつ覚えていく。自分の手から鳴る和音の響きにこんなにもワクワクしたのはギターを始めたとき以来で、音楽の楽しさや美しさが体を通して染みる。コードには不思議な魅力がある。

 夕方には窓から向かいの家の子どもが弾くピアノが聞こえる。どっちが先に上手に弾けるようになるだろうか。あの子も音楽の楽しさに気づいてくれるといいな、と思う。