京都府南部の天井川

京都府南部の天井川

天井川の形成過程

天井川の形成過程

  「ドーン」。背中が一瞬、浮いたようだった。突然のごう音で跳び起き、1階窓のブラインドを上げた。ガラスの向こうは腰の高さの水。「どうなってるの」。すぐに夫と車で逃げた。間もなく濁流が自宅を貫通した。
 昨年8月14日午前4時ごろ、前夜からの豪雨で宇治川支流の弥陀次郎(みだじろ)川が決壊した。宇治市五ケ庄の破堤地点に住んでいた仲野典子さん(56)は「あと少し逃げるのが遅れていたら…ぞっとする」と振り返る。
 決壊場所の川底は周囲より約2メートル高い「天井川」だった。川沿いの住宅8戸が全壊し、周辺約480戸が浸水。大雨で堤防が崩れれば、荒れ狂う水が低地を襲う。60年前の南山城水害でも多くの人命を奪った天井川の破壊力を見せつけた。
 弥陀次郎川は、水が流れ込む流域面積が約1・4平方キロと狭く、川幅3メートルほどで普段の水位も20センチに満たず、多くの住民は無警戒だった。自宅が全壊した松重悦子さん(71)は「35年間で氾濫はなく、安全なもんやと思っていた」。
 災害後に府が設置した検討会で専門家らは弥陀次郎川の決壊の原因について、流れてきた石や木が河床コンクリートを破壊し、護岸部分が水に侵食されて堤防が崩れたとする見解を示した。ただ確定ではなく、その他の可能性も残した。
原因究明を難しくしたのは、河川データの乏しさだ。弥陀次郎川の天井川部分に計測設備はなく、豪雨時の水位や流域雨量などは推定だった。検討会座長の中川一・京都大防災研究所教授は「住民の命や財産を守るには監視が欠かせない。それができていなかったのは非常に残念だ」と苦言を呈した。
  府内の天井川は23河川。山城地域に15河川が集中、天井川部分は計13・6キロと府内全体の65%を占める。府が各天井川の流量や構造、住宅立地などを基に算出した決壊や被害リスクが高い5河川は全て山城地域にある。
府南部豪雨の反省を踏まえ、府は水位計やカメラ、雨量計を新たに府内の天井川や流域に設置し、全23河川で監視体制を整えた。だが天井川を解消する堤防切り下げは、膨大な費用や長期工事が壁になる。府は20年以上かけて切り下げ工事を続けてきた弥陀次郎川や防賀川(京田辺市)での作業を急ぐが、国道や鉄道と交差するなど実施が困難な場合は河床や護岸の補強でしのぐ方針だ。
 洪水予測に詳しい京大工学研究科の立川康人准教授は「改修履歴を記録して川の状態の経年変化をつかむのも対策の一つだが、弥陀次郎川のような流域が狭い支川では雨量が流量に直結する。ハード整備には限界がある」と指摘する。「精度が飛躍的に向上している計測技術を用い、局所的な水かさを予測して避難の判断に生かすことが最も現実的だ」

昨夏の府南部豪雨では、南山城水害と同じく天井川の決壊や山崩れの多発などで宇治市を中心に山城各地に大きな被害を及ぼした。水害への備えはどうすればいいのか。第2部では治水治山や住民の取り組みなどハード、ソフト両面から現状を見て、その課題を考えたい。