困窮に陥った暮らしをどうつないでいくか。最後の支えとなるセーフティーネット(安全網)が、国の生活保護制度である。

 いざ頼みの綱になるのか、いま全国に渦巻いている不安がさらに深まりかねない判決ではないか。

 2013~15年の生活保護費の引き下げは生存権を侵害し違憲だとして、愛知県内の受給者18人が国や自治体に減額の取り消しなどを求めた訴訟で、名古屋地裁は原告の請求を棄却した。

 物価の下落などを基準額引き下げに反映させた厚生労働相の判断は裁量権の範囲で、「不合理とは言えない」というのが理由だ。

 同様の訴訟は、京都、滋賀など29都道府県で約千人が起こしており、今回が初の判決だった。

 生活保護費のうち食費、光熱費に充てる生活扶助費は、訴訟対象の13~15年で平均6・5%減、最大10%減とされた。18年から3年間では最大5%減と引き下げが続く。「生活が成り立たない」と訴える受給者の危機感は強い。

 裁判で争われたのが、引き下げ方法の妥当性だ。判決は、デフレ環境を理由に「裁量権の逸脱や乱用は認められない」とした。

 厚労省は、基準額の算出方法ととして一般の低所得者の消費支出と比較し、生活保護費が多くならないようにしている。13年の引き下げも低所得者の支出減少を基にした物価下落率を反映させた。

 だが、低所得者の消費は景気変動に影響されやすく、より大幅な引き下げにつながったと訴える受給者に判決は正面から答えていない。低所得者の生活苦と保護額の切り下げが連鎖するのでは、生活の支えはおぼつかない。

 憲法25条が保障する「健康で文化的な最低限度の生活」を担うのが生活保護制度だ。机上の統計よりも受給者の生活実態を直視し、生存権を守るのに十分な水準かどうかで判断すべきではないか。

 判決が、引き下げ判断を「国民感情や国の財政事情を踏まえたもの」と是認したのも納得できない。後を絶たぬ不正受給などへの対策は必要だが、周囲の目線や感情で「最低限の生活」の水準が値切られるのでは足元を危うくする。

 新型コロナウイルスの感染拡大の影響で、多くの人が仕事や収入、住まいなどの糧を失っている。

 解雇・雇い止めは全国で2万6千人を超えた。各地で生活保護申請が急増している。自営業やフリーランスら従来になく幅広く影響が出ており、確かに支えていく安全網の在り方が問われている。