宮川町にあるビルの壁に書かれた落書き(京都市東山区)

宮川町にあるビルの壁に書かれた落書き(京都市東山区)

 祇園や木屋町、新京極など京都市内の繁華街で、落書き被害が後を絶たない。今年5月には五花街の一つ、宮川町(東山区)でオーストラリア人の男が建物の外壁などに絵や文字を書いたとして、器物損壊容疑で逮捕された。9月には地下鉄車両に落書きが見つかり、上下線が運休、約2千人に影響が出た。美しい街並みをどう守り、継承していくのか。落書きを根絶しようと、地域ぐるみで取り組む住民たちを取材した。

 「看板は店の大事な顔。許せない」。宮川町の事件で被害にあった日本料理店「●(=品の口がそれぞれ七)久屋(きくや)」の大将駒井靖さん(52)は憤る。店の看板に黒色フェルトペンで「GHOST」と書かれた。専門業者に依頼して消したが、うっすらと跡が残った。

 被害は「●(=品の口がそれぞれ七)久屋」だけでなく、近隣のビルの外壁やゲストハウスのゴミ箱など46カ所に及んだ。駒井さんは「生まれ育った町に落書きされるのは嫌な気分。京都には観光客など多くの人が訪れる。住民で声を掛け合って気を付けるしかない」と話す。

 中京区のNPO法人「京都割れ窓理論実践委員会」は2007年春から、京都市全域で落書き被害を調査し、美化に取り組んでいる。現在は64人のメンバーが在籍。メンバーはそれぞれの担当地域で被害がないか、日々の仕事の合間に見回り、全員で一斉に年10回ほど除去作業を行っている。

 同法人が6月に祇園地区で実施した調査に同行した。メンバー3人が自転車で細い通りを走りながら、建物の外壁や電柱、エアコンの室外機などをくまなく点検。落書きの内容や形状を地図に書き込んでいく。最近は、ペンなどで直接書いたものよりも、名前や言葉などを印刷したステッカーを張り付けたものが目立つという。約4時間かけて、80カ所の被害を確認した。

 京都市広告景観づくり推進室によると、落書きは器物損壊罪にあたる。電柱や道路標識など公共物にステッカーなどを貼る行為は屋外広告物等条例に抵触し、30万円以下の罰金が科せられる可能性があるという。 同法人代表理事の小池英信さん(72)は、落書きが増えることで、景観だけでなく治安も悪化することを憂慮する。「最近は閑静な住宅街でも被害が目に付く。美化に努めることで安全な町づくりにつなげなくては」と話す。

 落書きが行政によって展示、保管された例もある。東京都は今年1月、正体不明の路上芸術家バンクシーが描いた可能性が高いとして、東京港の防潮扉にあった落書きを取り外し、現在は倉庫で保管している。

 落書きが発見されたのは約10年前。人目に付かない場所に描かれていたことなどから、除去作業が行われていなかった。だが、2018年末に東京国立近代美術館がバンクシーの作品の可能性があると指摘したことで注目が集まった。

 絵の保管について都文化振興部企画調整課は、混乱を防止するための対応だったと説明する。バンクシーとは連絡が取れず、本人が描いたものなのかどうかは今も分からない。同課の杉山浩二課長は「今回の絵はあくまで落書きという位置づけ。アート作品だという人もいるが、芸術家といえども公共物に勝手に描くことは許されない」と話している。