本町エスコーラの広場で開催されたイベントを楽しむ隅田一家(京都市東山区)[LF]

本町エスコーラの広場で開催されたイベントを楽しむ隅田一家(京都市東山区)[LF]

 三十三間堂に近い京都市東山区の住宅地。空き家が目立つ通りに面した路地を抜けると、多国籍空間が広がっていた。長屋に隣接する100平方メートルの広場に、トルココーヒーやレバノンピザの模擬店が並ぶ。国籍や年齢もさまざまな来場者の間を、近所の子どもたちが「公園みたい」と走り回る。

 同区本町8丁目の老朽した空き長屋8軒と広場を一体化して再生するプロジェクト「本町エスコーラ」が、昨年11月下旬に開いた地域との交流イベント。「エスコーラとはポルトガル語で学校の意味。コミュニティー、建築、(水道や電気などの)インフラ、三つの『自律』がテーマです」。大学研究員の山口純さん(35)は、2015年に始まったプロジェクトについて説明する。

■2割が空き家の街

 東山区は人口の高齢化に伴い過疎化が進み、空き家率は5軒に1軒と京都市内で最も高い。本町エスコーラの物件も長らく手つかずだったが、趣味のブラジル音楽の活動拠点を探していた佐々木暁生さん(44)が建築などに関心がある仲間に呼び掛け、再生に乗り出した。

 3軒が住居で、京都精華大で学ぶフランス人男性(24)、大工の女性(30)、保育士の女性(31)とインドネシア人男性(36)の夫婦が住人。山口さんや佐々木さんら約10人が4軒を仕事や趣味の部屋として使う。「ドマ」と呼ぶ共有スペースもあり、貸し出しも行っている。

 1軒の広さは10畳ほど。はりはむき出しで建築途中のよう。冬は寒く、夏は暑い。トイレとシャワーは共同だ。月1回の運営会議で、改修の方向性や暮らしのルールなどを話し合う。不便さや他人と濃密に付き合う生活。山口さんは「対立や仲たがいもある。トイレ掃除の当番一つにしてもうまくいかないこともある」としつつ、人と意見をぶつけ合う中から生まれる学びを大事にしたいという。

 エスコーラは地域コミュニティー再生のモデルとしてまちづくり関係者の視察も多いが、近くに住む女性(74)は「いろんな人が来て、イベントの案内ももらいますが、私らにはよう分かりません」。

■地域との距離徐々に縮め

 実際、エスコーラは地域に溶け込むのに苦労してきた。古くからの住民に不信感を抱かれ、騒音などで苦情が出たこともある。付き合い方を模索する中、町内会に入り、神社の祭礼や運動会、防災訓練に積極的に参加した。昨年の台風被害では被災家屋の修復作業に当たるなどして、少しずつ距離を縮めている。

 1年半前、エスコーラに新たなメンバーが加わった。プロジェクトを通じて知り合い、結婚した自営業隅田桂丞(けいすけ)さん(35)とめぐみさん(36)夫妻に長女が誕生した。「ここの利点はいつもだれかがいること。近所の人もよくしてくれて子育てを頼むこともある」。エスコーラ隣の長屋に住む夫妻は「多様な人とつくる過程を楽しめる」暮らしを気に入っている。

 「雨水利用や発電など自律的インフラはこれから。エスコーラに完成形はない」と山口さん。あえて造りかけの形をとどめることで新たな人が入りやすくなり、従来の価値観が更新されることを狙っている。

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 2019年が幕を開けた。今年は改元で新しい時代を迎える。急速に進む少子高齢化や国際化、情報技術革命。ポスト平成の世の中は、どのような風景が広がるのか。旧来の価値観が大きく揺らぐ中、多彩な生き方を追い求める人々を訪ねた。