確かに、速い。車窓の景色は瞬時に後方に吸い込まれていく。ただ大部分はトンネルで、どこを走っているのか分からなかった-。約20年前、山梨県のリニア実験線に試乗した時の思い出だ▼そのリニアは6年前に中央新幹線として着工されたが、先行きへの懸念が膨らんできた。静岡県内の工区で水資源問題を巡って地元了解が得られないだけではない。財源や採算が見通しにくくなっている▼総工費9兆円超。一部に国の資金が充てられるが、JR東海の負担は軽くない。そこへコロナ禍が追い打ちをかけた。収益の柱である東海道新幹線は大型連休中の利用率が前年比6%にまで落ち込んだ▼需要が完全に戻るかどうかは分からない。テレワークが進み、出張などの移動は減少するとも指摘される。東京一極集中から、デジタル化による地方分散型社会をつくるべきとの声も出始めている▼「コロナ後」の社会の在り方とリニアのような大量輸送システムには、重ならない部分も見えてきたように思える。完成後に新幹線とどう両立するかといった疑問も、なお残っている▼災害時の代替輸送手段などの役割はふまえつつ、その将来像を考え直してみる機会ではないか。状況が変わる中、どこを走っているか分からないようなリニア計画であってはなるまい。