田村宗立「越後海岩図屏風」1903年

<ミュージアムのちから コロナ禍に考える>

 京都国立近代美術館(京都市左京区)が所蔵する田村宗立(そうりゅう)「越後海岩図屏風(びょうぶ)」は、油絵なのに屏風に仕立てられた不思議な作品だ。青く澄んだ岩陰、黄色の砂、真珠色の空。波の表現は写実的だが、全体に非現実的な雰囲気が漂う。

 主任研究員の梶岡秀一さんが背景を解説する。宗立は京の画僧で幕末、独学で西洋画の技法を学んだ。先駆者としての苦労はあっただろうが、明治以降の洋画家が西洋の模倣に陥り、独自性を出すのに苦しんだことに比べると、限られた情報を丁寧に消化し、他にない世界を描き出すことに成功している、と。

 不思議な味わいの謎が少し解けたように感じられる。だが、作品の魅力は全て説明されたほうがいいのだろうか。

「チェコ・デザイン 100年の旅」展の会場(撮影・守屋友樹)

 特定研究員の本橋仁さんは展覧会「チェコ・デザイン 100年の旅」で説明文を展示物から離した。誰がいつ作ったかなどの情報より、ガラスのコップやいす、ランプの形の面白さや優雅さ、配色、デザインに興味を集中してもらうためだ。

 「美術館は受け身でいる場所ではない」と学芸課長の池田祐子さんは指摘する。作品を見ることは自問することでもある。何を表現しているのか、どの表現が優れているのかと考える作業だ。そのため「能動的に見てほしい。考える余地のない展覧会は面白くない」という。同館では、考えるきっかけとなる情報は提示するが、見る側が考えるための「余白」を必ず残す。詳しい情報は図録に掲載し、さらに深く知ることができる参考文献も紹介している。

 池田さんは芸術の役割として「現状に批判的に対処すること」を挙げる。「現状でいいのか常に考えてほしい。学芸員が名作だと言えば、本当に名作なのか」。人生に能動的に関わり、現状をより良くしようと考えること。その刺激として、芸術は存在するのだと。

 ただ、説明がないと不安にもなる。時間をかけて説明文を読みながら、作品は短時間しか見ない人も少なくない。考えることは決して楽ではない。

 「だから美術館もサポートする。見やすい動線を考えたり、世に知られた作品を最初に置いたりして」。その上で自分で考えることが大切、と池田さんは繰り返す。
 

京都国立近代美術館(撮影・四方邦煕)

 京都国立近代美術館 近現代の絵画、彫刻、版画、工芸、デザイン、写真などを幅広く収蔵する。本橋さんらが取り組む美術鑑賞プログラム「感覚をひらく」は、見える人と見えない人が共に鑑賞することで、見ることの意味を問い直す。視覚障害のある人に健常者の見え方を説明するのではなく、作品や模型に触れたり、話し合う体験を通じて、全ての鑑賞者の感覚を開発しようとする試みだ。京都市左京区岡崎円勝寺町。075(761)4111。