彦根警官射殺事件の経過

彦根警官射殺事件の経過

 彦根市の河瀬駅前交番で昨年4月、井本光(あきら)巡査部長=当時(41)、警部に昇任=が部下に射殺された事件で、殺人罪などで起訴された元巡査の男(20)=懲戒免職=の裁判員裁判が大津地裁で30日から始まる。事実関係に大きな争点はない見通しだが、検察側は犯行当時19歳だった元巡査の刑事責任能力を問えるとするのに対し、弁護側は心神耗弱状態で責任能力は限定的だったとして争う方針だ。犯行動機も明確になっていない。裁判のポイントをまとめた。

□責任能力

 元巡査は、勤務中の交番内で背後から上司の井本巡査部長を撃った後、近くのコンビニで現金50万円を引き出し、パトカーで逃走した。南に約4・5キロの水田に転落すると、拳銃を捨てて徒歩で逃げた。逃走資金を準備する冷静さの半面、動転した様子もうかがえる。

 大津地検は、犯行の様態や取り調べの状況、大津家裁の調査結果などから、責任能力は完全にあると判断した。精神鑑定は実施していない。

 弁護側は、昨年12月までに大津地裁が実施した精神鑑定の内容から、心神耗弱で責任能力は限定的だったと主張する予定だ。心神耗弱は、善悪を判断する能力が著しく低下している状態で、認められれば刑は減軽される。

□動 機

 動機の解明は公判での最大の焦点となる。殺人容疑などで逮捕された元巡査は、滋賀県警の調べに「直前に書類作成の指導を受け、ストレスのようなものが一気に爆発した」と供述。だが、大津地検から事件を引き継いだ大津家裁は検察官送致(逆送)の決定で、「(井本巡査部長に)両親を侮辱されたように感じた」とした。

 元巡査が井本巡査部長と勤務するのは、犯行日がわずか5回目。逮捕後の調べには「指導はきちんとしてくれた」とも述べている。

 弁護側は、上司を射殺した事実関係は争わない方針だが、動機をどのように主張をするのかは判明していない。法廷で元巡査が何を語るのか注目される。

□量 刑

 量刑は責任能力や動機を踏まえて判断される。元巡査は犯行当時未成年だったが、人を殺害しており、成人と同じ刑事裁判が相当と判断された。傍聴席からは元巡査の表情がうかがえる見通しだ。

 一般的に未成年は成人より更正の可能性が高いとされ、刑の軽重に一定考慮される。ただ、今回は「市民の安全を守る警察官が拳銃で射殺」という特殊な事案で、高い倫理意識が求められる警察官という事情や、社会的影響も評価するとみられる。

 公判を前に、井本警部の妻美絵さんは「夫は二度と帰ってきません」「被告人には強い憤りを感じるのみです」とコメントを発表した。遺族の処罰感情も強いとみられ、刑罰と更正のバランスを巡り、裁判員は難しい判断を迫られそうだ。