イラスト・冨田望由

イラスト・冨田望由

<いきものたちのりくつ 中田兼介>

 白状しますが、私は海で泳ぐことが少し怖いのです。特に水面から底が見えないようなところはダメ。大きななにかが足元から浮上してきたら…とか、怖い想像をして叫びそうになります。ですから、私は極力水の上に出ているようにします。これならなにかいても手を出せまいて。

 しかし、南極の海に浮かぶ氷の上にいるアザラシには、そんなのんびりしている余裕はなさそうです。彼らの天敵シャチには、水中から氷の上のアザラシを捕まえる見事な方法を身につけたグループがいるからです。アメリカ海洋大気庁のロバート・ピットマンさんたちが詳細を報告しています。

 シャチは体が5~8メートルくらいにまで成長する肉食のほ乳類で、クジラやイルカの仲間です。知能が高く社会性を示します。体の大きさやエサの種類によっていくつかのタイプに分かれており、アザラシを狙うのはタイプBと呼ばれるシャチです。

 彼らは海氷の周りで、水面から頭を高く突き出しては沈むことを繰り返し、アザラシを探します。首尾よく発見すれば、何頭かで連れ立って氷から少し離れたところに移動します。距離としては5~50メートル。そこでシャチたちは氷の方に向き直り、触れ合うほどの間隔で横一線に並び、アザラシのいる氷に向かって列を保って泳ぎ始めます。水面近くを進むシャチたちは、氷に接近し、氷の下に潜る直前に尾びれを上げ大波を起こします。これをアザラシにぶつけ海に流し落とすのです。氷が大きく、アザラシを端まで押し流すことができなくても、波が氷を割って小さくするので、何度も強い波を当て続ければ、消耗したアザラシはそのうちに海に落ち、食べられてしまいます。

 大きなシャチに氷を包囲され、一糸乱れぬチームワークでかかられてしまえば、アザラシにはもうなすすべがありません。ほらやっぱり海は怖いのです。(京都女子大教授)

◆中田兼介 なかた・けんすけ 1967年大阪府生まれ。京都大大学院で博士号取得。著書に「クモのイト」「びっくり!おどろき!動物まるごと大図鑑」など。「図解 なんかへんな生きもの」を監修。