今年の春闘が事実上スタートした。世界経済の減速が懸念される中、日本の景気を下支えするには着実な賃上げで内需拡大を図る必要がある。経営側は責任を自覚し、前向きに取り組んでほしい。

 2014年以来、デフレ脱却に向け政府が経済界に基本給の底上げであるベースアップ(ベア)を要請する「官製春闘」が続いてきた。

 結果、昨年まで2%前後の平均賃上げ率を維持し、取り組みは一定の成果を得てきた。

 だが、暮らし向きは依然厳しい。景気拡大期間は戦後最長となる可能性があり、企業の内部留保も大きく膨らんでいるが、働き手の取り分を示す労働分配率は低迷したままだ。

 加えて、米中貿易摩擦などで世界経済の減速感も鮮明になりつつある。10月には消費税増税も控えており、国内景気を腰折れさせないためには積極的な賃上げが欠かせない。

 官製春闘からの脱却を模索する経団連は、べアだけに焦点を当てず、ボーナスや諸手当など多様な年収ベースの賃上げを各企業に検討するよう求めている。

 だが、息長く家計、消費を支えるには、業績次第で減るボーナスなどよりも、やはりベアで実質賃金を引き上げ、その上で長時間労働抑制や同一労働同一賃金、仕事と生活の両立支援などを総合的に進める必要があろう。

 労働側の連合は、2%程度のベアに定期昇給分を加えた4%の賃上げを要求している。

 気がかりなのは、過去3年連続で「月3千円以上」のベアを求めてきた自動車総連が、ベアの統一要求額を明示しないようにしたことだ。

 大手と中小が同じベアを実現しても賃金格差は縮まらないとして、目標水準の設定を各労組にゆだねて格差改善を図ることにしたという。

 昨年の春闘では、相場形成をけん引してきたトヨタ自動車の経営側が、同様の理由でベアの妥結額を示さなくなり、トヨタ自動車労組も受け入れた。

 これにより、トヨタ自動車労組が先鞭(せんべん)をつけて有利な数字を引き出し、後続企業の労使交渉を有利に運ぶ従来のパターンが成り立たなくなっている。

 賃金の格差是正は重要な課題だが、こうした方法はどこまで効果があるのだろう。今後、同様の動きが広がれば、逆に労働側の力が分散して春闘の機能が後退することはないか。注意深く見届ける必要がある。