京都アニメーション第1スタジオの前で立ち尽くす男性。ファンの悲しみは深かった(8月2日、京都市伏見区)

京都アニメーション第1スタジオの前で立ち尽くす男性。ファンの悲しみは深かった(8月2日、京都市伏見区)

 7月25日、無残に焼け焦げたスタジオをぼうぜんと見上げる男性(29)がいた。気温35度超の炎天下で長時間、動かない。涙と汗が頰を伝い、流れ落ちていた。

 36人が死亡、33人が重軽傷を負った京都市伏見区のアニメ製作会社「京都アニメーション(京アニ)」第1スタジオの放火殺人事件の発生から1週間後だった。男性は京アニ作品のファンといい、「事件を知り、何も考えられなくなった。心に迫るアニメを作ってくれた人たちが…」と声を詰まらせた。

 私は京アニ事件取材班の1人として、スタジオや近くに設けられた献花台で1カ月以上、取材を続けた。関東や九州から台湾や韓国などの海外まで、数え切れないファンが花を手向けに訪れた。おえつを漏らし、泣き崩れる姿を何度も目にした。

 家族や友人を失ったかのように深く心を傷付けられたファンたち。彼らもまた、事件の“被害者”だと感じた。共通していたのは「人生を京アニに救われた」という言葉。私は恥ずかしながら、事件前までは有名なアニメ会社ということしか知らなかった。人々がそこまで心を寄せる京アニ作品とは何なのか、知りたくなった。

 取材班で7月末に話し合って「ファンを主役にした紙面をつくろう」と決めた。私たちは献花台で取材を続け、計100人以上のファンの声を聞いた。うち約20人に登場してもらい、8月19日朝刊で「私の隣にいてくれた京アニ 事件受け止められない」という見出しの特集紙面にまとめた。

 記事で取り上げた京都府中部に住む中学2年の女子生徒(14)は、京アニ作品「涼宮ハルヒの憂鬱(ゆううつ)」を見て不登校から抜け出した。主人公が型破りな言動で同級生を翻弄(ほんろう)しながらも、仲間に囲まれる姿に「青春って感じ。学校って楽しいんだな」と思えるようになった。今では京アニ好きの親友もできた。「今の私があるのはハルヒのおかげ」という言葉が印象的だった。

 原発事故に絶望しかけた福島県の農家男性、全身の筋力が衰える難病「筋ジストロフィー」と闘う男性も「困難に立ち向かう力をもらった」と話した。録画したアニメを週末に観賞する会社員など、日々のささやかな楽しみにしている人も多かった。

 ファンにとって、京アニ作品は人生をともに歩むような存在だった。そのエピソードを記事にすることは、犠牲になった36人のアニメーターが心に響くアニメを生み出してきた証しにもなると考えた。

 京アニの新作映画が公開された先月6日、私も取材として映画館で観賞した。生き別れた“姉妹”が手紙を通じてつながる物語。繊細なキャラクターの心象表現、透明感のある映像美に引き込まれた。気付けば目に涙が浮かんでいた。多くの人に愛される理由が、少し分かった気がした。