つかもと・ひろや 1975年亀岡市生まれ。山城高で作詞作曲を始める。ボストンのバークリー音楽大卒。ジャズと南米のリズムを融合した作品を発表。2004年からニューヨーク市在住。

 3月半ばからニューヨークは外出禁止になり、6月下旬にようやく解除された。この間、幼稚園に通う娘のオンライン授業を見守る日々が続いた。ある日、先生が読み聞かせてくれた本のタイトルは「I Am Human」。人種、文化が違えどみんな同じ人間だという内容。

 「これは一体何なんだろう?」。世界を覆う新型コロナに自問する数カ月。NYの人々はこれまで、世界各地の文化を維持しながら暮らしてきた。この暮らしをも変える見えない波の大きさに驚く。

 5月末からは、人種差別に反対するプロテスト(抗議活動)も始まった。コロナ、プロテスト、政治が連鎖しながら混沌とした状況が増す。急に始まったように見えるが、根本は米国社会と、個人に長年たまり続けていたものが今回一気に増え、決壊したのだろう。

 自分自身の生活も変わった。それまでは毎週、米国各地でコンサートを行ってきた。コロナ前の最後のライブは3月14日。以来、観客の前でライブは開けていない。当たり前だと思っていたことが当たり前でなくなり、仕事への打撃は大きい。先の見通しも立たない。

 「一体これは何なんだろう?」。強いて答えを求めるなら、コロナはわれわれに「もう一度考える」ことを促しているのではないだろうか。過去に個人が、あるいは社会が、やってきたことと、やってこなかったこと、また避けてきたことを思い出させ、あらためて考えさせる。

 マンションの階下に住む友人ウィリアムから電話があった。ハイチ生まれの元軍人だ。友人と一緒に今考えていることを、ポッドキャストで配信していきたい、2曲程ギターを弾いてくれないか、と。

 彼は、部屋でアルゼンチン出身のジェイソンと人種、歴史の話をしていた。演奏後、流れで配信トークにも参加した。音楽から今の状況へ話題は移り、最後に2人は「もう一つの時代が終わった、と思うしかないのじゃないか。もう元に戻ることはできない」と録音を締めくくった。

 「差別をなくそう」のように、大きな声を上げていくことに加えて、根本的に一対一の個人レベルで、人種、国を越えたつながりをはぐくんでいくことがいかに大切か。

 7月4日は、米国の独立記念日だった。今それぞれみんなが考えている。大事に思うこと、優先順位はさまざまだろう。自身もこの文章を書くにあたって考えた。答えは出ない。

 が、最後は、娘の学校の本のタイトル「I Am Human」に戻ってくるのではないか。本の副題は「Book of Empathy(共感の本)」だった。(音楽家)