事件現場近くの献花台に供えられた色紙。京アニ事件では国内外のファンから多くの支援が寄せられた(昨年8月18日、京都市伏見区)

事件現場近くの献花台に供えられた色紙。京アニ事件では国内外のファンから多くの支援が寄せられた(昨年8月18日、京都市伏見区)

 69人もの死傷者を出した京都アニメーション放火殺人事件では、政府が税制優遇を含む異例の対応を決め、被害者への手厚い金銭支援が実現した。だが、海外に比べると日本の犯罪被害者支援制度はぜい弱で、本人や遺族は補償を巡って泣き寝入りせざるを得ない例が多い。京アニ事件の遺族は全国に散らばっていて、支援を巡る地域格差も浮かんでいる。

 京アニ事件では国内外にファンを持つ企業が狙われたことから総額33億円超の義援金が集まり、国会議員の要望や官邸の意向を反映して配分金全額が非課税扱いとなった。しかし、この事件が犯罪被害者の経済支援を広げるかといえば、その可能性は低いとみられる。義援金配分に関わった京都府の担当者は「多額の義援金が集まった今回のケースは極めて特殊で、日々起きるような事件への適用は難しい」と見る。
 国内では、犯罪被害者への金銭補償は主に国の犯罪被害者給付金(犯給金)と、加害者が払う賠償金がある。犯給金の上限額は死亡2964万円だが、昨年度、被害者の年齢や収入などを考慮して遺族に支給された犯給金の平均額は613万円にとどまる。加害者側に資力のない場合は賠償金も受け取れない。日弁連の調査では、賠償金回収率は罪が重くなるほど低く、殺人は3・2%、殺人未遂は1・4%しかない。
 海外に目を転じるとスウェーデンやノルウェーは犯罪被害者支援の専門省庁を持つなど取り組みが進んでいる。ノルウェーは補償の上限額が8千万円を超え、賠償金も加害者が払わなければ国が立て替えた上で財産を差し押さえる制度があるという。
 京アニ事件を契機に関係自治体では支援拡充の動きが出ている。犠牲者の大村勇貴さん=当時(23)=の出身地、静岡県菊川市は4月、事件を受けて犯罪被害者支援条例を新たにつくり、見舞金30万円の支給を盛り込んだ。
 京都市は被害者が家事サービスに払った費用を給付する仕組みを今春に新設した。京都犯罪被害者支援センターが京アニ事件の遺族、負傷者と面談する中で「悲しみや喪失感に堪えながら食事の支度や子どもの送迎をこなすのがつらい」との声が上がったことがきっかけになった。
 こうした動きがある半面、自治体間の制度のばらつきは大きい。2004年に制定された犯罪被害者基本法で、被害者支援は自治体の「責務」と明記されたが、警察庁によると、犯罪被害者に特化した支援条例を整備した自治体は21都道府県、7政令市。市区町村では326にとどまり、全体の2割弱にすぎない。
 京都新聞社の調べでは京アニ事件の犠牲者36人の遺族が住む28の市区町村のうち、条例があるのは10自治体。今回、制定に取り組んだ菊川市の担当者は「事件が起きるまで課題だという認識がなかった」と明かす。
 弁護士による支援も地域で差がある。京アニ事件では報道対応などを弁護士に任せる遺族がいる一方、被害者を弁護士につなぐのに必要な警察と弁護士会の連携体制が整っていない県が多く、支援を受けている人は1桁にとどまるとみられる。
 京アニ事件で30代の息子を失った父親は京都新聞社の取材に「世界中から支援をいただき大変ありがたい。だが、全ての犯罪被害者に支援がいきわたる制度が必要だと思う」と訴えた。