「匿名の暴力」の耐えがたい被害をどうすれば的確に食い止められるだろうか。

 インターネット上の誹謗(ひぼう)中傷対策を巡り、総務省の有識者会議は、被害者が匿名の投稿者を特定しやすくするための制度見直しの方向性を中間報告案にまとめた。

 会員制交流サイト(SNS)を中心に、匿名で誹謗中傷の書き込みをする投稿者について電話番号も開示対象に追加することが柱だ。

 ツイッターなどSNSの利用に氏名や住所の登録は一般的に不要だ。このため被害者は、誹謗中傷した投稿者を特定するのに管理者とプロバイダーのそれぞれに開示請求や裁判手続きが必要なことが多いという。

 その点、電話番号はSNSの利用登録に使われ、サイト管理者に請求するだけで投稿者を特定しやすくなる。複雑な手続きを諦める「泣き寝入り」を避け、迅速な被害救済の道が開けるという。悪質な投稿抑止への期待もあろう。

 ネット上で特定の人物の名誉を傷つけたり、プライバシーを侵害したりする匿名の投稿は増えている。総務省の窓口への被害の訴えは2019年度に5千件を超え、10年度の約4倍に上っている。

 被害の深刻さを再認識させたのが、5月のプロレスラー木村花さんの急死だ。テレビのリアリティー番組に出演し、SNSで多数の誹謗中傷を受けていた。

 これに高市早苗総務相が「スピード感を持って対応する」と制度見直しを表明。矢継ぎ早に情報開示の要件緩和案の議論を進めた。

 総務省は、今夏にも電話番号の開示追加を省令改正で行う方針という。ただ、国民的な関心の高まりをてこに、ネット情報の取り扱いへの国の関与拡大に前のめりな姿勢が目に付く。

 中間報告案にも、情報開示を迅速化するためとして、新たな裁判手続きの創設を法改正を視野に検討することを盛り込んだ。訴訟を経ることなく、被害者の申し立てで裁判所が情報開示の適否を判断・決定する仕組みを想定している。

 これに対し、有識者会議の半数の委員が、匿名による表現の自由や通信の秘密の確保が前提だと慎重な検討を求める意見を付けた。正当な告発や政治批判まで発信者の特定が乱用されれば、言論の抑圧や萎縮を招きかねない。議論を深め、拙速は避けねばなるまい。

 ネット事業者自ら人権侵害に毅然と対処し、利用者も責任ある情報発信に努めることで、自由な情報空間を守っていく必要がある。