「災害弱者」といわれる高齢者らに安全に避難してもらう困難さが改めて突き付けられていよう。

 九州を中心とする豪雨で、最初の大雨特別警報が熊本、鹿児島両県に出されて10日になる。

 活発な梅雨前線による断続的な強い雨を警戒しつつ、懸命な捜索・救助や復旧活動が続いている。

 洪水や土砂災害が相次ぎ、球磨(くま)川が広範囲で氾濫した熊本県を中心に死者は70人を超え、10人前後が行方不明となっている。

 際立っているのは、犠牲者の多くが高齢者であることだ。自宅で川の増水や土砂崩れに巻き込まれたほか、高齢者施設で多数が犠牲となり、衝撃を与えた。

 熊本県球磨村の特別養護老人ホーム「千寿園」は4日未明に水没し、入所者14人が亡くなった。

 宿直の職員数人と駆けつけた近隣住民の計約20人で入所者を1階から2階に運び、51人は助かったが、途中で濁流が押し寄せた。エレベーターがなく、階段を車椅子ごと数人がかりで上げるのに時間がかかったという。

 園は球磨川に支流が注ぐ地点に近い。同村は前日夕、大雨を警戒して「避難準備・高齢者等避難開始」情報を発令。夜間に勧告、指示に引き上げた際、わずか1時間半で球磨川の水位は約3メートルも急上昇したという。

 増水で合流できない支流が津波のように逆流する「バックウオーター現象」が起きたと専門家は指摘している。どこまで危険性が認識されていたのか、早い段階で入所者の避難を始められなかったのか、詳しい検証が求められる。

 今回の豪雨で被災した高齢者施設は、福岡、熊本両県を中心に特養、グループホームなど99カ所に上る。入所者は自力歩行が難しかったり認知症だったりする人も多い。地価の安さなどから川沿い、山間部など災害の恐れの高い立地が少なくないことを見つめ直す必要があるだろう。

 施設の防災対策は、2016年の台風で岩手県のグループホーム入所者9人が犠牲になったのを受け、浸水想定区域内の特養、病院などそれぞれに「避難確保計画」の策定が義務付けられた。

 だが、今年初めの策定率は45%にとどまり、滋賀は30%、京都は6%しかない。災害リスクを総点検して策定を急がねばならない。

 大切な命を守るため、どの状況で、誰が、何をすべきか。必要な手だてを訓練で確かめ、裏付けとなるマンパワー確保や施設改修などで備えておくことが不可欠だ。