老後の安心を揺るがしかねない状況は見過ごしにできない。

 公的年金の積立金を運用している年金積立金管理運用独立行政法人(GPIF)は、2019年度の運用実績が8兆2831億円の赤字だったと公表した。

 4年ぶりの赤字で、リーマン・ショックのあった08年度の9兆3千億円に次ぐ巨額の損失だ。

 新型コロナウイルスの感染拡大による世界的で大幅な株価下落が、資金運用を直撃した。株式市場の値動きによって収益が乱高下する体質が、改めて浮き彫りになったといえよう。

 年金は、現役の加入者が払う保険料を給付に充てるのが基本で、積立金は現役世代が減る将来への備えだ。GPIFの宮園雅敬理事長は「単年度の損益で年金給付に影響は出ない」と強調する。

 確かに、資金の市場運用を始めた01年度以降の累積収益額はなお57兆円に上る。政府も短期的な評価額の目減りであって実損ではないとし、静観する構えだ。

 だが、老後の生活設計の柱となる国民の貴重な財産を、大きな振れ幅を伴う市場のリスクにさらし続けることが妥当だろうか。

 年金運用の改革は、安倍晋三政権の実績とアピールされてきた。14年秋、安定重視の国債中心から株式への積極投資にかじを切った。投資配分で国内と海外の株式を各25%に倍増させた。

 世界最大級とされるGPIFの運用資金を株式市場に流し込み、株高でアベノミクスを引っ張ろうという政権の思惑は明らかだ。

 日銀の大規模金融緩和によって国債の利回りが極めて低い中、運用益の確保策であったのも事実だ。リーマン後の世界経済の回復と株高基調が追い風となった。

 だが、コロナ禍は状況を一変させた。経済活動の制限で各国市場が急落し、今年1~3月期の運用は17兆円超の赤字と四半期ベースで過去最悪となった。

 足元の株価は持ち直し傾向だが、各国の大型経済対策や金融政策の支えによるものだ。各企業は業績回復を見通せておらず、感染拡大が収まらない状況で株価が上向きの軌道に乗るのは望みにくい。

 将来的に年金給付額への影響を危ぶむ国民は少なくない。

 会計検査院は昨年、年金運用の調査報告でリスクの高い運用方法を警告し、投資手法の透明性確保や積極的な情報開示を求めた。

 年金資産の確実な保全という原点に立ち戻り、国民が安心できる運用と丁寧な説明が必要だ。