京アニ社員の座談会や最新作のカットなどを掲載した書籍やブルーレイディスクで構成される「私たちは、いま!! 全集2019」

京アニ社員の座談会や最新作のカットなどを掲載した書籍やブルーレイディスクで構成される「私たちは、いま!! 全集2019」

木上益治さんが「三好一郎」名義で作成した「バジャのスタジオ」の絵コンテ集

木上益治さんが「三好一郎」名義で作成した「バジャのスタジオ」の絵コンテ集

 アニメ製作会社「京都アニメーション」(京都府宇治市、京アニ)の社員による座談会やイラストを載せた書籍や、ブルーレイディスクで構成される「私たちは、いま‼全集2019」。昨年7月の第1スタジオ放火殺人事件の発生前に終えていた取材を基に京アニが編集し、事件の影響で遅れつつも完成にこぎつけた。犠牲になった社員のメッセージも多数掲載されている。手にしたファンからは、犠牲者をいたむ声とともに、京アニの再興を願う声が上がっている。事件は18日で発生から1年を迎える。(年齢はいずれも当時)

 「全集」は京アニが隔年で催すファン感謝イベントに合わせて出してきた。各社員がクリエーターとしてのこだわりと技術を語り、メッセージを寄せている。若手、ベテランを問わず社員一人一人の「顔」をファンに見えるようにする、業界でも珍しい企画だ。

 昨年11月に予定していた感謝イベントは事件の影響で中止に。「全集」の完成も延期されていたが、今年2月中旬ごろから予約客への配送が始まった。

 19年版「全集」は社員のインタビューやイラストを載せた本や、最新作の製作過程をイラストとカット付きで紹介する本などがセット。前回の「全集」と変わらない分量と質を確保している。

 事件で36人の社員が亡くなったが、「全集」の座談会や寄せ書きには多くの犠牲者が登場する。亡くなった社員が直近に残した言葉と映像からは、アニメ作りに全力を注いだひたむきな情熱と信念が伝わってくる。

 インタビューの本では、高校吹奏楽部の青春群像を描いた18年公開の映画「リズと青い鳥」の章で、事件で犠牲になった石田奈央美さん(49)や西屋太志(ふとし)さん(37)らスタッフが製作の現場を振り返っている。

 色彩担当として20年以上のキャリアがあった石田さん。「リズ」では色彩を通じてアニメの世界観とイメージを創造する色彩設計を担った。座談会で、もろくてはかない少女の思春期を、水彩画のような静謐(せいひつ)さと透明感をたたえた色で表した作画について「本当に一筋縄ではいかない表現ばかりですね」と語っていた。

 社員の寄せ書きと直筆コメントを本人のイラスト入りで載せるのも「全集」の特長。京アニのホープと期待されていた西屋さんは「リズ」のキャラクターデザインと総作画監督を兼任し、卓越した画力とこまやかな人物描写で国内外のアニメファンの心をつかんだ。「2人の女の子の心情を、繊細に、慎重に、追い続けました。本当に、至福のひとときでした」。寄せ書きには創作の喜びを飾らない言葉でつづっていた。

 「全集」は、アニメスタジオで働く人々をユーモラスに描いた短編「バジャのスタジオ」のブルーレイディスクと絵コンテ集も付いている。「バジャ」は京アニのスタジオがモデルとみられる建物が登場し、最後に社員の名前が流れる。

 監督は京アニの礎を築いたベテランアニメーターの木上益治(きがみ・よしじ)さん(61)。「師匠」として他の社員を引っ張ってきたが、事件で命を落とした。「三好一郎」名義で参加したスタッフとの座談会で、京アニが培ってきた緻密なタッチとは異なる、コミカルで丸みのあるキャラクターを描く意義を説いた。「『バジャ』のような作品も並行して制作できると、スタッフの成長にもつながる」と若手の飛躍への期待を熱弁していた。

 ネット上では「全集」の配送開始直後からファンの書き込みが相次いだ。
 「胸の中にある何かがこみ上げてきて、やりきれない気持ちになってしまいました」
 「これからも京アニ作品の好きなところや素晴らしさを沢山(たくさん)沢山皆さんにお伝えしたいです」
 「あの日を忘れることはできないし、忘れてはいけない」