シャープペンシルと定規でオーボエを描く高橋さん(映画「リズと青い鳥」ブルーレイディスクより)

シャープペンシルと定規でオーボエを描く高橋さん(映画「リズと青い鳥」ブルーレイディスクより)

実家に保管されていた高校時代のノート。余白の端々に高橋さんは挿絵を描いていた

実家に保管されていた高校時代のノート。余白の端々に高橋さんは挿絵を描いていた

 事件で亡くなった高橋博行さん=当時(48)=は、メカや楽器の精緻な描写で数々の作品を下支えした。父の喬造さん(77)=神戸市=はあの日から、亡き息子の姿を追いかけた。

 自宅に残された机の引き出しを初めて開けた。絵の具やイラストが整然と並んでいた。高校時代のノートを丸みを帯びた丁寧な字が埋め、余白に挿絵が添えられていた。「漫画をまねて描いたのか。思いの外うまく描けてアニメーターを目指したのか。自分勝手に想像しているんです」

 高橋さんは、1992年に20歳で京都アニメーションへ就職した。プライベートでも親しくした元社員の上宇都(かみうと)辰夫さん(56)は「あれだけ細かな作業ができるのは、一言で言えば、好きだからこそ」と後輩の姿を思い返す。

 入社当初から仕事の空き時間にF1の車を描き、スポンサーの社名ロゴの書体に至るまで正確に再現した。2000年ごろには、レーシングカーの車体に映り込む光を滑らかに描き出した新作ゲームのアニメーション表現に、「ショールームにある車みたいや」と驚嘆していた。

 だが、陰で重ねた努力と研究が生かされる機会は、なかなか訪れなかったという。京アニが携わる作品は、下請け時代から人物の作画表現が中心だったからだ。

 その職人技が脚光を浴びたのは、2009年に始まる「けいおん!」シリーズ。軽音楽部でバンド活動に打ち込む女子高生の日常を描いた大ヒット作だ。高橋さんは楽器の作画作業を統括する役割を担い、ギターやドラムのリアルな再現で作品の世界観に厚みを持たせた。

 「真っ先に、絶対、高橋さんにやってもらおうと思っていた」。作品のブルーレイディスクに収録された解説音声で、山田尚子監督は製作の話が舞い込んだ時の心情を振り返っている。かねて高橋さんの描く小物や車の完成度の高さに注目していたのだ。