大野萌さんからプレゼントされた国語辞典を手にする祖父(京都府木津川市)

大野萌さんからプレゼントされた国語辞典を手にする祖父(京都府木津川市)

 夢への階段を上っていた孫は、何より家族思いだった。「めぐに会いたい。もう一回会いたい」。京都アニメーション放火殺人事件で亡くなった大野萌(めぐむ)さん=当時(21)=の祖父母は、かなわぬ願いを口にした。巡り来た再びの夏。脳裏に浮かぶ在りし日の姿も、心に刻まれた悲しみも、あの日から変わっていない。

 大野さんは駆け出しのアニメーターだった。動きの核となる原画を基に、何枚もの絵を描く「動画」の担当として「ヴァイオレット・エヴァーガーデン外伝―永遠と自動手記人形―」(2019年)や「響け!ユーフォニアム~誓いのフィナーレ~」(同)などの作品に携わり、エンドロールに名前が載った。

 京都府木津川市に住む祖父母が今月上旬、取材に応じた。命日が近づき、体調が優れないという祖母(66)は「帰ってこないのは分かってるんだけど、帰ってきてほしい」と震える声で話した。その言葉は、事件の2日後に聞いた嘆きと重なった。「戻れるものなら帰ってきて」。大野さんの安否が、まだ分かっていなかった時のことだ。

 祖母は、問わず語りにこの1年を振り返った。

 部屋に大音量で音楽をかけて、こたつ布団にくるまって思いっきり泣いた。行くあてなく外を歩き回ることもあった。帽子をかぶり、マスクを着けて泣き顔を隠した。車で出掛けると、行く先々に孫との思い出が詰まっている。ハンドルを握る萌さんの母親が泣きだすから、自分は気持ちを押し殺す。

 祖父(70)は、昨年の誕生日祝いに大野さんからもらった国語辞典を手に取った。祖父がファンだった広島カープのデザインをあしらった特別品。書店でわざわざ予約して、取り寄せてくれた。「じいちゃん、早く開けてみてよ」。孫の声がよみがえってくる。

 入社前、大野さんは京アニの「プロ養成塾」に通いながら、アルバイトを掛け持ちしていた。奈良市のバイト先から孫を車に乗せて帰る道のりは、祖父にとって特別な時間だった。いつも明るく話し掛けてくれる孫と、2人で笑い合った。でも、会話の内容は思い出せない。「思い出そうとすると、しんどくなる」

 祖父は、取材に応じた理由を「優しい孫だったと伝えたい」と話した。1年前の取材時と、変わらない答えだった。