「日本の素朴絵」展の会場。「かわい~い」「シブい!」「ピュア」など、素朴絵を現代の感覚で読み解いた(京都市下京区・龍谷大龍谷ミュージアム)

<ミュージアムのちから コロナ禍に考える>

 「この子、あと5センチずらして」。龍谷大龍谷ミュージアム(京都市下京区)講師(学芸員)の村松加奈子さんは展覧会設営中、つい作品を擬人化している自分に気づくという。各地から集まってきた作品に「来てくれてありがとう」と感謝する気持ちがそうさせるのだろう。

 一堂に会した作品はユニットであり、チームだ。どう組み合わせ、輝かせるか。展示構成に知恵を絞る。並べてみて初めて気づくこともある。

 昨年9月の「日本の素朴絵」展で、和歌山県の石の狛(こま)犬と愛知県の陶製の狛犬を近くに置いた。同じ日本で作られたのに見た目も素材もまるで違う。「こんなに表現に幅があるなんて」。あえて解説を最小限に絞った。観客に、違いに気づき、考えてほしかったからだ。

 コロナ禍で作品のウェブ配信やバーチャル展覧会が推進される流れにある。村松さんは「非常時には有益な手段」と認めつつ、一抹の不安を抱いている。大きさや質感、他作品との対比など、展覧会場で現物が語る情報量はとても多いからだ。

 例えば、古美術を扱う村松さんにとって作品はもともと傷んでいるものだ。表面が剥がれ落ちそうだったり、傷があったりするが、その現物を見ることで内包された時間の長さ、保存や修復の重要性にも気づく。

 しかし、デジタル素材は傷みが分かりにくい。「クリアに見せるし、撮影する側もライティングを工夫して傷みが目立たないように撮影する」からだ。ただ美しいだけの画像がネット上で拡散すると、傷や古さが表す価値に思いが及ばなくなるのではないかと懸念する。

 「チーム」が語ることもある。コロナウイルスの感染拡大で開催を断念したが、「ブッダのお弟子さん」展では、いつもは脇役に回る釈迦(しゃか)の弟子に光を当てた。専門的で難しい内容かと思われたが、村松さんは「まるで映画のワンシーンのように作品同士が呼応している」と感じた。釈迦入滅後の物語を、展覧会場全体が表現していた。

 コロナの収束が見通せない中で、文化財行政は厳しくなると村松さんは予測する。だからこそ、文化財の真価を伝えるために本物を見てもらう重要性をいっそう強く感じている。

2017年9月に開催した特別展「地獄絵ワンダーランド」では、絵巻、浮世絵、仏像など時に遊び心さえ感じられる豊かな地獄の表現を通じて、日本人の死生観、来世観などを探った。インパクトのあるポスターも話題になった
 

 龍谷大学龍谷ミュージアム 仏教に関わる文化財を収集・展示する。「日本の素朴絵」展の開催中、「自宅にあるのとそっくりな作品が展示されている。私のは偽物だろうか」と、90歳近い女性が兵庫県から一人で作品を持って来館した。南天棒筆の「雲水托鉢図」で、同作品は複数あり、女性のも恐らく直筆と判明。「父から譲られ、病気の時も枕元に掛けていた」と聞き、村松さんは作品を通じてその人の人生に触れた気がしたという。京都市下京区堀川通正面下ル。075(351)2500。