ようやく少し落ち着いて作品を見る気持ちになった。事件後は犠牲者の無念が画面の隅々に感じられ、正視できなかった。京都アニメーション放火殺人事件から1年がたった▼明るく夢のある作品を数多く生み出したクリエーターたちが、なぜこれほど残虐な犯罪の犠牲にならねばならなかったのか。あまりの理不尽さに今も胸が震える▼「涼宮ハルヒの憂鬱(ゆううつ)」「響け!ユーフォニアム」など京アニ作品の多くは学校の日常を中心に物語が展開する。教室や部活といった空間を共有する中で、等身大の少年少女が本音で語り合い、悩みながら成長していく▼この1年、社会は大きく変わった。新型コロナウイルスの出現で、親しい間柄でも社会的距離を保ち、マスク越しの会話となった。インターネットを活用したテレワークなど人と人の接触を最小限にすることが求められる▼特定の店に張り紙をし、営業を阻止する「自粛警察」と呼ばれる動きもあった。自分は姿を隠したまま主張を一方的に押しつける風潮は不気味だ。ウイルスとの闘いは、人の心を変えていくのだろうか▼京アニは現実の風景を作品に取り入れ、視聴者と共有できる物語空間を大切にした。作品の数々は私たちが立ち戻るべき、かけがえのない日常を映し出しているのだとあらためて思う。