失われたものの大きさを思い知らされる日々ではなかったか。

 京都市伏見区の「京都アニメーション」第1スタジオが放火され、36人が死亡、33人が重軽傷を負った事件から1年がたった。

 地元京都などを舞台に世界的に人気のアニメ作品を手掛けてきたクリエーターらが猛火に襲われ、平成以降で最多の犠牲者を出した殺人事件である。衝撃と悲しみは世界中に広がった。

 突然に大切な人を奪われ、いまも「時が止まったよう」と受け入れがたい思いの遺族もいる。

 大きな喪失感に包まれながらも、会社やアニメ関係者らは、犠牲者たちの仕事と情熱を引き継ごうと懸命に前へ踏み出している。

 ただ、惨劇を引き起こした多くの疑問の解明と、犠牲を繰り返さないための取り組みは、緒に就いたところだ。

 最大の問いは、なぜ京アニを標的に多くの命が狙われたかだ。

 ガソリンをまいて火を付けたとして、殺人容疑などで5月に逮捕された青葉真司容疑者の取り調べで動機の解明が焦点となる。

 「小説を盗まれた」と主張しているというが、「多くの人を殺害できる」とガソリンを使い、周到に下見するなど強い殺意を抱いたのはなぜか。

 当時の精神状態を調べるため、現在は3カ月の鑑定留置中だ。全身やけどのため体調に配慮して捜査は長期化が見込まれるが、丁寧に事実関係を見極めて真相に迫ってほしい。

 建物火災の怖さも問い直された。ガソリンの爆発的燃焼で、階段の吹き抜けから3階まで一気に炎と煙が広がったとみられ、構造的な弱点も浮かび上がった。

 京都市消防局は、脱出できた人の証言から、危機的状況での呼吸確保や飛び降りの方法などの避難指針もまとめた。どんな事態であっても命を守れるよう施設の在り方を見直すと同時に、想定訓練で教訓を生かす必要がある。

 人気アニメ会社が襲われた事件に、国内外から総額33億円超もの義援金が集まり、特例的に非課税扱いで被害者と遺族に配られた。社会的関心の高さを考慮した判断だが、国際的に脆弱(ぜいじゃく)とされてきた犯罪被害者支援の見直しにつなげるべきとの指摘も出ている。

 京アニ事件の遺族は全国に散らばっており、支援は自治体ごとにばらつきがある。今回を契機に見舞金支給や家事補助などの支援を広げる動きもある。全国的な制度拡充を考えたい。