新型コロナウイルスの感染防止対策に追われる介護事業所の支援策として、厚生労働省が介護報酬の上乗せを認める特例措置を設けたことが波紋を広げている。

 介護サービスを実際より長時間提供したことにして請求できるようにした。感染対策に費やした時間を報酬に反映させ、事業所を下支えする狙いという。

 だが、コロナ対策の負担を求められることに利用者からは疑問の声が上がっている。事業所の間でも「利用者との関係が悪化しかねない」と、特例の適用を見送るケースが出ている。

 新型コロナの影響で、多くの事業所は減収が続いている。経営支援は喫緊の課題だが、利用者の経済的な負担が増えればサービス利用の手控えにつながりかねない。

 「社会全体で介護を支える」という介護保険制度の理念に沿って、感染拡大に伴う事業所の追加費用や減収補填(ほてん)については公費での支援を検討すべきだ。

 特例は、通所介護(デイサービス)や短期宿泊(ショートステイ)など6事業の提供者を対象に、6月利用分の申請から認められた。適用には利用者から同意を得る必要がある。

 京都市内のケアマネジャーによると、デイサービスの場合、利用者の負担増は月に数百円から千円程度という。しかし、介護保険では要介護度別に毎月の利用限度額が定められており、これを超えれば通常1~3割の自己負担が10割になる。数万円の負担増となる可能性もある。

 厚労省は利用者に負担を求める理由について「安心安全なサービスを受けられるメリットがある」とする。だが、感染症対策は安全なサービス提供の前提で、利用料に含まれているとみるべきではないか。ましてや、新型コロナの感染拡大は利用者や家族の責任ではない。

 実際に利用した時間に上乗せして費用負担を求めるのなら、国はその根拠を示すべきだ。

 特例が苦境にある介護事業所の救済策であるにもかかわらず、多くが適用を躊躇(ちゅうちょ)している実態にも注視する必要がある。

 今年2月に比べ4月の売り上げがどれほど減ったかを聞いた全国介護事業者連盟の調査では、660カ所のデイサービス事業所の4分の1が「20%以上40%未満」の減少と答えた。「10%以上20%未満」という事業所も約3割に達している。

 その一方で、京都市上京区のデイサービス事業所スタッフらでつくる「ささえ愛の会」のアンケートによると、回答した21事業所の6割が特例を使わなかったり、判断を先送りしたりしていた。負担増への同意を求められても断りづらい利用者の立場に配慮して、事業所が適用を見送っているのは明らかだ。

 厚労省は特例を緊急的な措置としているが、終了時期は示していない。専門家からは、このままでは破綻する事業所が出かねないと危ぶむ声が上がっている。

 新型コロナは感染の再拡大がみられる。安定した介護サービスを維持、提供できるよう、利用者と事業所双方を支える仕組みを急ぎ構築する必要がある。