リニア中央新幹線の品川-名古屋間の開業が、当初予定の2027年から遅れることが確実になった。37年と構想されている大阪延伸も遅れる可能性が高くなっている。

 静岡工区の南アルプストンネル工事の環境対策を巡り、静岡県と事業者のJR東海の対立が続いているためだ。

 トンネル掘削工事で地下水が流出し、大井川の水量減少や水質悪化の可能性がある、と静岡県は懸念している。

 JR東海によると、予定通り完成させるには6月中に準備工事を始める必要があったが、静岡県の川勝平太知事はJR東海の金子慎社長とのトップ会談で準備工事を了承しなかった。

 静岡県は流出する水を全量、大井川に戻すよう求めている。一方、JR東海による地下水の流出予想や対策は二転三転している。昨年秋には「トンネル掘削で湧出する水が県外に流出しても、大井川の水は減らない」と主張するなど、地元に対し説得力のある解決策を示せていない。

 こうした中、準備工事だけでも進めようという姿勢が計画ありきと受け止められ、かえって反発を招いたのではないか。

 静岡県にリニアの駅は計画されていない。環境負荷だけがのしかかるという思いも地元にはあるだろう。

 総工費9兆円という巨大プロジェクトだからこそ、JR東海は丁寧に進める必要がある。

 疑問なのは国の姿勢である。

 トップ会談が物別れに終わった後、国土交通省の事務次官が県を訪れて環境への影響が軽微な準備工事の容認を求めたが、川勝知事は難色を示した。

 地下水の流出可能性は、14年の着工認可の以前から明らかになっている問題だ。

 JRに対策を任せたまま工事を認可した国の見立ては、甘くなかったのだろうか。

 国は3兆円を低利融資し事業を後押しする立場だが、同時に国民への説明責任もある。JR東海側に立つ提案ばかり出していては、打開策は得られまい。

 国交省は専門家による有識者会議をつくり、県とJR東海双方の意見の検証を始めているが、手続きの中立性に疑問符が付いている。

 これまでに4回の検証会議があり、静岡県推薦の委員1人がさらなる検証が必要と主張したが、多数派の国推薦委員は「工事による大井川中下流域の水利用への影響はない」とするJR東海の主張を容認する姿勢を見せた。

 静岡県は会議の全面公開を求めているが、一般の傍聴はできず、議事録も匿名だ。地元の理解を得るためには、透明性の確保は欠かせない。

 リニアへの期待感は京都などにもあるが、環境を巡って新しい問題が浮上する可能性もある。静岡工区の経験は、広く共有されるべきではないか。

 リモートワークが普及すれば、コロナ禍以前の出張や旅行を念頭に置いたリニアの需要予想も前提が崩れそうだ。

 これを機に、計画ありきの姿勢を改める時ではないか。