ロバート・ボーンさん、デビッド・マッカラムさんといえば「0011ナポレオン・ソロ」でスパイを演じた俳優だ。1960年代、日本のお茶の間でも人気者になった▼「ロバート本」「デビッド100(ヒャッ)コラム」は、作家の橋本治さんが80年代半ばに出した雑文集である。奇妙な題名に面食らい、2人に由来するだじゃれと分かると、さらに「?」に包まれた▼訃報に接し、久しぶりに手にする。文字の小ささに時代を感じるが、中身は今も面白い。スーパーのチラシ、郷ひろみ、遺伝子工学…とりとめもない話題が、いつのまにか日本社会や文化状況の鋭い分析になっている▼東京大の大学祭の「とめてくれるなおっかさん」のポスターで注目され、小説「桃尻娘」や古典の現代語訳など多彩な作品を世に問う。時事的なニュースにも発言した▼平成の「即位の礼」での空前の厳戒態勢について本紙に談話があった。「警備の方も過激派も舞い上がり過ぎているような気がする」と橋本さんらしい▼いくつも顔を使って、何気なく時代の真相に迫るのは、優れたスパイの仕事のようでもある。あの題名にはそんな意味が―というわけではないだろう。再びページをめくると、こうある。<人間にはただ意味もなく悪ふざけをしたいという欲望がある>