長次郎 黒樂茶碗「面影」

<ミュージアムのちから コロナ禍に考える>

 樂(らく)美術館(京都市上京区)は450年にわたって受け継がれてきた樂家歴代の作品を収蔵する。樂焼は、わび茶を追求する千利休の求めで、初代長次郎が生み出した「抹茶を飲むための茶碗」だ。手捏(づく)ねで形づくり、1碗ずつ焼き上げる。

 そのルーツは中国・明代の三彩というカラフルな焼き物だ。しかし、長次郎は全て黒釉(ゆう)で包まれる黒樂茶碗を作った。

 館長の樂直入(十五代吉左衞門)さんは、長次郎の黒樂茶碗「面影」と「万代屋黒(もずやぐろ)」をぜひ鑑賞してほしいという。同じように見える作品だが、「長次郎の茶碗は造形的な要素、美の概念、情緒的なものや装飾的なものを捨てる中で成立しているが、その中にもいくらかは造形性がうかがわれるなどの幅がある。『面影』は、造形的な変化や個性が見られる代表的なものの一つ」と解説する。

 わかりやすい表現や造形性を捨てようとして、それでもなお残った造形へのあこがれの残照が「面影」だという。それに対して、「万代屋黒」は、個性や変化をそぎ落とした姿だ。

長次郎 黒樂茶碗「万代屋黒」

 「なぜ黒いのか」。戦国期という世の厳しさのせいか、あるいは時代が求めたのか。小さな茶碗が、考えることを迫ってくるようだ。静かな館内に、桃山時代からの気迫がみなぎってくるようにも感じられる。

 重要文化財の長次郎作「二彩獅子像」も樂さんがぜひ見てほしい1点という。天正2(1574)年制作の彫銘を持つ。躍動的な獅子の姿は狩野永徳筆「唐獅子図屏風(びょうぶ)」にも通じる。所有者に織田信長が想定されるという説もある。

長次郎 二彩獅子像

 樂さんは、樂家当主として常に創造の現場に身を置いてきた。全てを出し切って創作に立ち向かい、終わればもう新たな創造は湧いてこないのではないかという恐怖と背中合わせの厳しさだ。だが、若い頃、進む道に悩んだとき、表現以前に「使われるもの」として存在する茶碗に優しさを感じたという。

 「一碗の茶碗のぬくもりの中に、生きる意味や自然を感じとることができる」。コロナウイルスの感染拡大で、美術館に足を運べないときは、お気に入りの茶碗で、自宅でお茶を一服飲む時間を持ってはどうかと樂さんは提案する。

 

 樂美術館 キャッチフレーズは「五感で楽しむ美術館」。海外からの賓客も多い。元国連事務総長のアナン氏が夫妻で来館し、お茶のもてなしに感激して「今日は最高の日だ」と樂さんに握手とハグを求めたことがあったという。駐日米大使を務めたキャロライン・ケネディ氏、フランスの思想家、社会人類学者のクロード・レビストロース氏、イタリアの女優クラウディア・カルディナーレ氏らも来館している。京都市上京区油小路通一条下ル。075(414)0304。