ほりえ・まさゆき 1982年生まれ。獣医志望からウイルス学へ。宿主とウイルスの共進化の関係を研究。帯広畜産大、大阪大、ドイツ・フライブルク大、鹿児島大を経て2017年から現職。

 地球上には10の31乗個ものウイルスが存在し、地球上のあらゆる場所で生態系の一部を担っていると考えられている。実際、海洋では、ウイルスが物質循環の重要な役割を担うことが知られている。

 例えば微生物に感染するウイルスは、感染で宿主となる微生物を溶解し、種々の物質を海洋へと放出させる。放出された物質は、再び他の微生物の栄養源として利用される。このサイクルが、海洋の生態系維持に重要である。

 生態系と聞くと、ピラミッド型食物連鎖を想像するかもしれないが、このようなかたちでウイルスも生態系の構成要素として関与している。

 しかし、さまざまな環境にどんなウイルスが存在し、どんな生物に感染し、どのように生態系維持に貢献しているのか。まだ、わかっていないことばかりである。世の中には、未知のウイルスが大量に存在する。おそらくヒトの生活に有益なウイルスも、自然界に数多く存在するのではないか。

 生物は、進化の過程でウイルスから多数の遺伝子を獲得してきた。私たちヒトのゲノム(全遺伝情報)DNAの約8%は、ウイルスに由来している。ウイルスから獲得した遺伝子の一部は、重要な役割を果たす。最もよく研究されている例が、胎盤を形成する際に起こる細胞と細胞の融合に必要なシンシチンと呼ばれる遺伝子である。

 シンシチンは、ウイルスのenvと呼ばれる遺伝子に由来する。env遺伝子は、ウイルスが細胞に感染する際に、ウイルスの被膜と細胞の膜を融合させるはたらきを持つ。このenv遺伝子が哺乳動物のゲノムに組み込まれて、胎盤形成の際の細胞同士の膜の融合へと転用されたのだ。

 驚くべき共進化の一例である。さらに、私たちのゲノムに存在するウイルス由来の遺伝子配列の多くは、数百万~数千万年前に獲得されたものが多い。つまり、私たちのゲノムに潜むウイルスの化石のようなものであり、遺伝情報から太古のウイルスについて知ることができる。これらもまた、未知のウイルスの一部であるといえよう。

 私は現在、病気としてのウイルスのみならず、このような観点からさまざまな生物・環境からのウイルス探索を行っている。ウイルスの研究は現在、病気としてのウイルス学のみならず、進化生物学や生態学など多様な学問と融合し、さらなる発展を遂げている真っ最中だ。今後、どのようなウイルスが見つかっていくのだろうか。(京都大白眉センター/ウイルス・再生医科学研究所特定准教授)