文豪森鴎外は若き日、ある実験をしている。愛飲家はご経験があろう、ビールを飲み過ぎると催す、あの現象についてだ。留学先のドイツで研究を勧められた▼自らも実験台になり、ワインや水、アルコール溶液などとともに朝から10回飲み、排尿量を分析した。その結果、ビールの利尿作用はアルコールの効果とみる。学会で披露されて「諸家の喝采を博せり」と誇った▼冷えた一杯がおいしい季節だ。そのビール系飲料の消費がコロナ禍で変化しているとか。「家飲み」で割安な第三のビールの販売が伸び、初めてビールを上回った。一方で、多彩な味のクラフトビールがじわり広がる▼かつての地ビールのことである。ブームは下火になったが、「工芸品」を表す名で再燃し、全国に醸造所は400超ある▼丹後・与謝野町も華やかな香りの一品を生んだ。原料のホップ栽培から始めて5年、今は町内での醸造を目指す。当初から携わるビアジャーナリストの藤原ヒロユキさんは自著で言う。「クラフトビールは造り手がビールと真摯(しんし)に向き合っているかどうか」が要と▼鴎外は留学中の日記で、医学生仲間にジョッキ25杯も飲む者がざらにいると驚いている。ジョッキを交わし、異国の文化を学んだ。造り手の熱意や風土が香る、そんな一杯を味わいたい。